モンスターとは
紳士として、配慮が足らなかった。結局オリビアの笑顔を曇らせてしまった。
「あの……ところでミケさんは、ケットシーですよね?」
「えぇ、いかにも、私はケットシーと呼ばれる種族の末席に連なる者です」
恭しく頭を下げる。オリビアが「やっぱりですよね」と呟く。
「という事は、私を食べるために……助けたという事でしょうか?」
オリビアがあっけらかんと、とんでもない事を口にした。いや、食べる為って。
「そのような事はございません」
「あぁ、だから怖いと感じなかったんですね」
確かにオリビアはこれから食べられるかもしれない、という恐怖心を抱いている様には見えなかった。しかし、どうして食べるなんて。
「……失礼ですが、如何してそのように思い至ったので?」
オリビアが驚いた様子を見せる。それから「そういう個体も、居ると聞いた事がありましたが」と呟いた。
「個体?」
自己完結してしまわないでほしい。答えを得るために、問いかける。
「あぁ、すみません……ケットシーはモンスターに分類されるんです……これは人間が勝手に決めた法なので、ミケさんが知るわけないと思いますが」
「分類……ですか」
詳しく知りたい。街に入れるかどうかの瀬戸際。私にとっては死活問題にも等しい。このままただの猫で終わりたくない。
「簡単に言ってしまえば、エルフとドワーフと獣人は亜人族として、一応の人扱いで、その他の種族は人を食べる、それか敵対するならモンスターという分類です」
「ケットシーは人を食べるのですか……自分で言うのもなんですが」
実感がない。食べたいという欲求もないし、これまで食べた記憶もない。割と何でも食べられるおかげで、今までは木のみ野草、たまに小動物の肉を食べていた。
「食べると思います、討伐対象にもなってますし」
「討伐対象……ですか」
これは街へ入るなど絶望的では。
「……ただむやみやたらに討伐するものでもありません、身の危険を感じたらというのが原則です」
それならよかったが。
「私は人を食べたいと思いませんが……それならモンスターという事なら、街に入るのは無理な話ですね」
私はがっくりと肩を落とす。いきなり夢が途絶えてしまった気持ちだ。何か抜け道があればいいが、前途多難なのは間違いなさそうだ。
「街に、入りたいんですか?」
オリビアが不思議そうに問いかけてくる。
「街に入って、装備を整え……出来れば冒険者の様な事をしたいと思っています」
はっきりと何をしたいか決まっていないが、とりあえず異世界転生したからには冒険者にもなってみたい。というか紳士という職業が無いから、冒険者をやりながら紳士ムーブをかまそう。
「あ、それなら……獣人って言い張れば」