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猫紳士たるもの、猫じゃらしで遊ばれるなどありえません。  作者: 高岩 唯丑
第二話

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その影の正体は

「むぅん」


 ベルトが唸る。難しいのは分かっていた。ベルトが依頼を出したわけではない。領主が代理で依頼を出しているのだ。依頼料も領主持ちなのだろう。すでに引き返せない所まで、事態が動いてしまっている可能性は高い。


「ワシも商売人としての信用もあるでのぉ、今さら覆すのは……ぐぅ、さすがに」


 かなり悩んでくれている様だ。しかし、商売人としての信用を失えば今後の生活に関わってくる。この歳の人達に、そんな無茶をお願いするわけにもいかない。


「申し訳ありません、無茶を申しました」


 頭を下げて先程のお願いを取り下げる。


「いや、頭を下げんでくれ、ワシの方こそ力になれんで、申し訳ない」


 そんな悔しそうな声が聞こえた。顔を上げると、ベルトは苦笑を浮かべていた。悔しさを覆い隠そうとしているような、そんな苦々しい笑い。見てられなくなり、後ろにいたオリーとアレクシアの方へ振り返る。


「情報は揃いました、草食の鬼人族の可能性は極めて高そうです、捜索を開始しましょう」


「頼むのじゃ」


 不意にベルトの声がして、振り返る。言ってしまえばベルトは被害者で、頼む立場ではないが。声には親しい人を心配する様な、そんな響きが含まれていた気がする。


「ワシの早とちりで危ない目に合ってるんじゃろ、申し訳ないしな」


 そこまで言ったベルトは、照れ隠しの様に少しいたずらっぽく微笑んだ。


「それに野菜の料金を取りそこねたら、たまったもんじゃないわい」


「……そうですね」


 必ず助けなければ。草食の鬼人族の為だけではなくなってしまった。この心優しいお爺さんの為にも。


「参りましょうか、お二方」


「はい!」


「はぁい」


 オリーの弾むような返事と、アレクシアのぽわっとした返事が重なる。私は華麗にターンして、歩みだす。帽子を被っていれば、つばを掴んで少し下げる仕草をしたものの、悔しい所だ。


 しかし代わりの仕草をする。傘を右腕にかけ、左腕を立てると胸の前辺りに持ってくる。そうして、ワイシャツのカフスボタンを整える。それから衿を引っ張るように整えた。決まっ、た……。


 うにゃー!


 ふしゃー! ふしゃー!


「はっ、失礼、取り乱しました」


 なんだ、何が私を惑わせた。腕にかけた傘に視線を送ると、傘はきちんと腕にかかっている。よし、お利口だ。では何が。


 もう一度私を惑わせた物をよく見ると、一つのきゅうりが転がっている。その少し先に、アレクシアの手が何かを放おった形で止まっていた。


「つい、噂を確かめたくてぇ」


 アレクシアがフワッと微笑んだ。その瞬間、視界の端に不穏な気配を感じて、横に振り向く。


「あはは……私もつい」


 きゅうりを手にしたオリーが、今まさにそれを放り出そうとしているところだった。


「おやめなさい!」

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