私たちの正体は
「実は私も」
ベルトの方に再度身体を向けて、そう切り出す。アレクシアだけに姿をさらさせて、自分は何もしないという訳にはいかない。
自らのマントを脱ぐと、ベルトに姿を晒す。ドラゴニュートより人間らしくないから、怖がられてしまうのではと思ったが、そんな事はなかった。
「獣人、かの……獣人は良くわからんのぉ、いろいろいるから」
獣人は人間の割合が多い者と獣の割合が多い者とがいて、すごく微妙なのだ。モンスターではないという自己申告を信じるしか無い。だが今回は。
「私は、ケットシーです……人間は食べませんが」
ベルトの表情に変化はない。
「じゃあ、あんたもかい」
ベルトがオリーに顔を向ける。当然の疑問だ。しかし、オリーに関しては、正体を明かす必要はない。ダークエルフで、人間を食べる種族ではない。むしろ食べられる方だから、立ち位置的にベルトの方ではある。
私はオリーの方に顔を向けた。
「無理に正体を明かす必要はありませんが」
「いえ、明かす意味はあります」
オリーがマントを脱ぐと、ベルトに対して口を開く。
「私はダークエルフです、人間を食べる種族ではなく、食べられる方ですが、二人と行動を共にして、実の危険を感じたことはありません」
オリーの言葉に、つい頷いてしまった。そういえば忘れていたが、オリーにとっては自分を食べるかもしれない者たちと行動していたのだ。なのに無事である。モンスターに分類される種族の中にも、人間にとって害のない個体はいるという、大きな証明だった。
「そうか……モンスターといっても色々なんじゃな、いままでモンスターは危険と言われておったし、若い頃に怖い思いをした事があったのじゃ、それで、凝り固まって追ったかもしれんのぉ」
緊張が取れたのか、最初の方に見せていた柔らかい雰囲気が戻ってきていた。理解してくれたらしい。一件落着というような雰囲気が流れかけて、そうではないと顔を引き締める。鬼人族の件は何も解決していない。
「分かっていただけて何よりですが、本題はそこではないのです」
「おぉ……あやつ、鬼人族の事じゃな、あやつは野菜を盗み食いしに来た不届き者じゃ、げんこつ一発と料金徴収せにゃ」
ベルトが不敵に笑い、右の拳を顔の前で握って見せる。人間は食べないと言っても、気性がどうか分からない。殴ると殴り返される可能性もあるが。
私は一度苦笑いを浮かべて、その言葉を流す。それから表情を引き締めて、ベルトに問いかける。望みは薄いが、一応の確認だ。
「鬼人族の件の依頼を取り下げる働きかけを出来ませんか」




