自己紹介とシスターである理由
「ゴロゴロゴロ……はっ、おやめなさい!」
お嬢さんの膝の上から飛びのく。
気が付くとお嬢さんの膝の上で顎を中心に撫でられて、喉を鳴らしていた。猫! これでは猫ではないか! 猫なんだが! 誇り高き紳士は自分の尻尾を追いかけて正気を失ったり、撫でられて喉を鳴らしたりしない!
「すみません……つい」
てへへ。そんな感じでお嬢さんが、頬を染めつつはにかんで謝罪してくる。いや、謝罪じゃない。全然反省している様には見えない。
「まぁ、よろしい……それでお嬢さん……」
もちろん名前も知らないから、言い淀んでしまう。まずは自己紹介を。
「失礼……名乗りが遅くなってしまいましたね」
紳士らしい挨拶。そして名前を名乗る。昔自分で紳士キャラになったらと考えていた名前があった。それを少しジョークを交えてもじって。
「私はミケ・ニャン・キャットフィールドと申します」
私は右手をお腹の辺りに当てて、頭を下げる。手と視界に映る範囲の毛並みしか見れていないし、鏡を見たわけではない為、自分が三毛猫かどうかは分からないが、ミケという名前は猫全般にありえる名前だと思う。
「あっ、ご丁寧にどうも」
お嬢さんの声が聞こえた所で、私は頭をあげる。お嬢さんの視線を受けて、微笑んで見せた。お嬢さんはまた頬を染める。
「……あっ、名乗ってもらって名乗らないなんてダメですね、私」
「いえ、そんな事は」
「私は、オリビア……見ての通りダークエルフです」
オリビアは自虐的に微笑むと、少し顔を下に向ける。ダークエルフの事はよく分からないが、卑下するような事なのだろうか。
「オリビア嬢……顔をあげてください、私はそんな自虐的な微笑みより、先ほどの様な頬を染めたはにかみの方が好きですよ」
「あっ……ミケさんは、意地悪な猫さんですね」
私は微笑みを返すだけにとどめる。ダークエルフというものが何かいわくつきの種族なのかと考えたが、せっかく良い笑顔になったオリビアの顔を曇らすのは紳士として宜しくない。その話はどこかで情報収集でもして、解決するとして。
「ところで、オリビア嬢、ここで何を? それにシスターの格好をしているのは何故で?」
「それは薬草採取の為です」
「なるほど、薬草採取で……」
「シスターの格好は……」
オリビアが立ち上がると、先ほど自身が座り込んでいた辺りに移動する。
「ここの辺りに」
オリビアが当たりを見渡すと、すぐに何かを見つけてそれを拾い上げた。黒い生地の何か。それを頭にかぶるのを見て、ようやく何を拾い上げたのか理解する。
名前は分からないが、シスターが頭から被っている物だ。
「これをかぶれば自然とエルフの特徴である長い耳が隠せるので……それから贖罪の為……シスター姿なのはその為です」
まただ。贖罪という言葉と共に、オリビアは力なく微笑んだ。自嘲を含んだその微笑みは、やはり痛々しい。