愛し合っている
「相棒よ、もしや君には意志があるのか」
そう思えてくるほど、タイミングがベストだ。ボールなんて望んでいない。あるとしたら、カッコつけた私のタイミングを見て姿を変えたということ。私はボールを拾い上げながら、そう問いかける。
もちろんだが返答はない。ボールが元の傘の姿に戻った。
「な、なんですか?」
トニーが怪訝な表情を向けてくる。アレクシアは逆で、頬を染めて「あらあらまぁまぁ、可愛いわぁ」と盛り上がっていた。
「申し訳ありません、少し取り乱しただけですので、アレクシア様の事は必ずお守りするので、ご安心を」
取り繕うだけになってしまうが、とにかく安心させなければ。
「こんなに可愛い猫ですけど、実力は保証します」
可愛いというのは納得できないが、オリーが助け舟を出してくれた。何とか納得してくれたのか、トニーが渋々という感じで頷く。
「申し訳ないが、時間がない、アレクシアさん、よろしくお願いします」
急かす様に声を上げるロラン公。そうだ。ここで楽しくお喋りをするために、集まったのではない。
「はい、二人をアーゼルンまで連れていけば良いですね?」
アレクシアが私とオリーを指し示すと、ロラン公が頷く。場所に関しては、少し考えがある。それを提示するために手を上げる。
「なんだ? 意見か」
私の上げた手に目を向けたロラン公が、続きを求めてきた。
「街に行っても出来ることはなさそうですので、農家の老夫婦の農場へ行ってほしいのですが」
色々推測でしか無いが、現地を見て話を聞けば本当の所が分かるかもしれない。そのために、まずはそこに行きたいのだ。
「わかった……」
頷いたロラン公が、アレクシアに顔を向けて続ける。
「まずはアーゼルンに向かってください、こちらから行けば、件の農場を通過する方向ですので」
「わかったわぁ」
ロラン公の言葉に頷いたアレクシアが、こちらに目を向ける。それからフワフワとした笑顔を浮かべた。
「よろしくねぇ、かわいい猫さん」
少し納得のいかない呼び方だが、仕方がない。アレクシアの言葉に頭を下げる。
「気をつけて」
トニーが本当に心配そうな表情で、そう呟く。愛しているのだな、と心底思う。差別的になってしまうかもしれないが、ドラゴニュートにひ弱そうなウサギの獣人が心配するなんて、本来ありえないだろう。そういう事があっても、心配してしまう。それは愛しているからなのだろうと思う。
「えぇ、あなた……貴方のために危ない事はしないと約束するわ」
愛しそうな瞳をトニーに向けるアレクシア。こちらも愛しているのだな、と思わせる空気をまとっていた。




