準備
アレクシアという方が館にやってくるまでに、準備を整えることになった。準備と言っても、それほど大事ではない。移動はアレクシアに飛んでもらう事になる。だから、野営する必要はなく、お金さえあれば最悪は現地で調達できる。あとは姿を隠すための装備ということ。
「特別製の魔法をかけたマントだ、身に付けると認識阻害することができる」
執務室から移動して、装備を用意してあった部屋にやってきていた。そこでロラン公が、一つのマントを持ち上げながら、そんな説明をしてくれた。それから少し言いづらそうにして、言葉を続ける。
「お前らの姿を、気にならないようにできるんだ」
「なるほど」
認識阻害とはそういう意味で、ということだ。姿が認識できなくなるというものではないのだろう。
「すまんな」
ロラン公が呟くように、そう謝罪した。我々の姿は決して恥ずべきものではない。堂々としているべきだ。ロラン公はそう考えているのだろう。だがそれはまだ、ロラン公の領地でしか通らない。
理想と現実に苦しんでいるのだろう。一瞬悔しそうにロラン公が顔を歪める。だがすぐに、切り替えるように表情を引き締めた。
「情報が入ってから、時間が経っている、もしかしたらすでに冒険者が討伐に動いているかもしれねぇ」
どの様な手段で情報をやり取りしているのか分からないが、事態が変わっている可能性は十分にある。それに冒険者が動いていればもしかしたら。
「冒険者と戦闘になる可能性がある」
ロラン公の言葉に、私は頷いて返した。やはりあり得るかもしれない。獲物を横取りするような物だ。素直に、はいどうぞと諦めてくれるなんてあり得ない。イメージではあるけど、血気盛んな者たちなのだ。冒険者なんてやっている者は。
「それからアレクシアさんを、守ってやってほしい」
「もちろん」
私は即座に返事をする。アレクシア自らから戦いに行ってしまったら、守る余裕があるか分からないが。
「理由は聞かないんだな、ドラゴニュートなのにと」
ロラン公が驚きと安心が混ざったような、そんな表情で呟く。それから薄く笑って呟いた。
「……ジェームズのやつが気にいるわけだ」
誰かに向けての言葉ではない。私の返答を聞かずに、部屋の出入り口の方へさっさと歩いていってしまう。
「頼み事をしてる身でこういう事を言うのは申し訳ないが、時間がない、急いでくれ」
ドアの前で振り向いたロラン公がそう口にする。オリーが「早く助けに行かないとですもんね」と返事をした。私もそれに同意する。
「そうですね、さぁ参りましょう」




