猫吸いと訪問者
う……うなー。
「はっ、失礼、というか、動けない」
朝日に照らされて、目が覚めると体が拘束されて動かなかった。顔だけ上げてお腹の辺りに視線を向けると、銀髪の頭頂部が朝日によってキラキラと輝いている。
「あぁもふもふぅ、綺麗に洗ったおかげで毛がもふもふです」
オリーの声。オリーが私のお腹に顔を埋めているらしい。その声の後に、大きく息を吸い込む感覚をかんじ……。
う……うなぁ。
「はっ、失礼、というか、おやめなさい!」
両肩を押すようにして、抱きついているオリーを引き離す。
「……嫌ですか?」
一向に離れようとしないオリーが上目遣いで、問いかけてくる。
「い、嫌では」
私の言葉に一瞬ニヤリとした顔が見えたが、すぐに顔を埋めてしまい見えなくなる。そして、また……。
うなー。
「はっ、おやめなさい! 嫌ではないですが、嬉しくもありません」
何だこの感覚は。嬉しくないし、嫌でもない。ただひたすら、無の感情。虚無。諦めの感情とも似ているかもしれない。猫吸いをされる猫は、こんな感情を抱いていたのか。
「もう朝ですよ! オリー、起きる時間です!」
「この幸せの中で、二度寝……し、た……いで、す……」
「起きてください? オリー!」
朝の攻防を終えて、やっと起きることができた二人は身なりを整える。私は一時的な子供用のシャツとズボン。オリーはシスター姿だ。ただ、耳は隠していない。
二人でリビングに入ると、昨日の夜に買っておいた朝食を食べる。もちろんオリーが入れてくれた薬膳ティーも一緒だ。
「さて、まずは朝の事についてです」
「?」
そう切り出すと、オリーが不思議そうに首を傾げる。惚けているのか、当然のことと考えているのか。
「ベッドに忍び込んできたことです」
寝る前には、別々の部屋に入り就寝したはずだった。しかし、朝気づいたらオリーに抱きしめられていた。そして、猫吸いされていた。
「忍び込んだ事がいけなかったのであれば、一緒に寝れば解決です」
ほら解決。というような、自慢げな笑顔を浮かべるオリー。いろいろと解決していない。
「まず、レディが男性の部屋に忍び込むなど、はしたないですよ」
諭すように優しい声色で伝える。しかしオリーは、あっけらかんとした表情で返してきた。
「ちなみに聞きたいんですけど、夫婦が別々の寝室ってどう思います?」
そこまで言うと、オリーは目を細めてニッコリとした笑顔を浮かべた。おぉう。その笑顔を見て、ロラン公の言葉が蘇ってくる。外堀はどんどんと埋められていく。こういう事なのか。
返答に困り、口ごもってしまう。別にオリーとの事が、嫌な訳では無い。むしろ好意的に思っている。しかし、まだ出会って長くはない。そんな中で、そういう仲になるのはなんというか。しかし、このまま黙っているのも、オリーに嫌な思いをさせてしまう。私は意を決した。
しかし、口を開こうとした所で、家の扉が乱暴に叩かれる音が響く。誰か来たようだった。




