戦いの結末
左手を腰に当てたまま、今度は木の棒を顔の前に構える。フェンシングはあまり知らないが、イメージだけでも、何とかなってしまうフィジカルがあるのは確かだ。
まずは、少しづつ左へ移動していく。この角度で突進してくれば、お嬢さんを巻き込んでしまう。それを避けるための移動だ。
ありがたい事に私はロックオンされている様で、動きにつられてイノシシの頭をこちらに向け続けてくれる。充分に移動してお嬢さんを巻き込む心配がなくなった。
「ぐぉぉぉぉ」
イノシシが咆哮をあげる。そしてついにこちらに向かって突進を仕掛けてきた。猪突猛進とはよく言った物でひたすら真っ直ぐ。実にわかりやすい。私は闘牛士の様に体をなびかせて、突進を避けた。
「ぐぅっ」
目標を失ったイノシシが木へと激突して、うめき声をあげる。私が避けられなかったとしても、あの感じでは激突していたと思うが、自滅覚悟の突進なのだろうか。あまり知能は高くない様だ。ファンタジー世界のモンスターと言っても、ピンからキリまでいるという事だ。
「この木の棒では太刀打ちできそうにないと思っていましたが、この戦法なら勝機はありそうですね」
何度も突進してくるのを避けて激突させて、弱らせる。トドメのみなら木の棒でも問題ないだろう。
そうして数回の突進からの激突を経て、イノシシは足をふらつかせていた。
「これにて終わりにいたしましょうか、イノシシ殿」
私は恭しく頭を下げる。少し嫌味ったらしいが、それを理解する知能も持ち合わせていないだろう。
私はふらついているイノシシの側面に駆ける。もちろんイノシシは反応はできない。私は木の棒を思いっきり引くと、そのままイノシシの横っ腹を思いっきり突く。
「はっ」
気合を入れた声をあげてさらに力を込める。それによってイノシシの横っ腹が木の棒によって沈み込む。さらに力を込めると、木の棒が軋んでひびが入った。
「これで終わりです」
私の声と共にイノシシの体が浮き上がり、吹っ飛ばされる。それと同時に木の棒も粉々になってしまった。
私はお嬢さんの方に向き直り、少し演技がかったお辞儀を見せる。
「お持たせ致しました、お嬢さん」
決まった。見事に紳士となった。格好が全然ダメな上に、レイピアでもないが。それでもこれなら!
お嬢さんも、感心して嬉しそうな表情を浮かべている。
私は心の中でガッツポーズを決めた。よしこの……あ……あれ、は……。
うにゃにゃにゃにゃ! ふにゃーっ。ふにゃにゃあにゃ!
「はっ……し、失礼、取り乱しました……」
気が付くと私は仰向けになり、自分の尻尾を両手両足を使って、追いかけていた。
お嬢さんは……そう思い様子を見る。あぁそんな目で見ないでいただきたい。そんな可愛い物を幸せそうに見つめる目は、よして頂きたい。
せっかくいい感じだったというのに。猫の可愛い習性が邪魔をした!