到着したわが家
街の露店で少しの食事を済ませた後、物件へと足を運んだ。確かに街の大通り、人通りが一番多い一等地にある。一階部分には、大きめの窓と扉があり、二階部分は住居なのだろう。小さめの窓がいくつか並んでいる。サイズ的にはそれ程大きな物件ではないが、この場所という事もあって、普通に借りたり購入したら相当の値段になりそうだ。
「入ってみましょう」
少し緊張した面持ちのオリーが、物件の鍵を開ける。
「掃除からかと思っていましたが、綺麗ですね」
最低限の調度品が並び、ピカピカに磨き上げられている。誰かが管理をしているのだろう。沢山物を置いていないのは、仕立て屋に必要な物が分からなかったから、という感じだろう。
「本当に、明日から店を開業できそうな」
中を見つめているオリーの横顔が、嬉しそうに微笑んでいる。
「何をするにしても、そんなに急がなくてもゆっくりでいいのですよ」
時間はあるのだ。私の言葉にこちらに顔を向けたオリーが笑う。
「さすがに明日からなんて言いませんよ、別の事で先にやりたい事もありますし」
何だろう。ただ、やりたいことがたくさんある事はいい事だ。催促するのはいい事ではないとは思いつつ、気になって聞いてしまう。
「ぜひ聞いてみたいですね」
「はい、もちろん話すつもりでいました……でもまずは二階を見て、落ち着けるところを探して一息つきましょう」
そういえば、ベッドで眠りたいなんて思っていたのに、それから時間は結構経っている。もう夕方だった。オレンジ色の光が、窓に当たって少しまぶしい。
二人で二階への階段を探す。一階部分は店舗にできる様になっているため、二階への階段は、奥の方に隠れていた。やっと見つけて、オリーと少し笑い合う。
二階は普通の住居という感じだった。リビングやダイニング、トイレもバスルームもある。一階と違って、こちらは必要以上に調度品があり、少し困ってしまいそうだ。
「ティーセットまであって、至れり尽くせりですね」
二人でリビングのソファに腰を下ろして、オリーがそんな事を言う。ティーカップには黄緑色の透き通った液体が入っている。見た目は緑茶の様な飲み物だ。オリーが入れてくれたものだ。
「薬膳ティーといった所でしょうか、薬草で作ったお茶です」
「良い香りですね、紅茶とは違う、おいしそうです」
カップに口をつけると、苦みが口の中に広がるが嫌な苦みではない。そしてそれからすぐに、爽やかなミントの様な風味を感じた。
「それなりに長い間、採取の依頼をやってたので、こういう活用方法も思いついて」
オリーが嬉しそうに笑う。




