外堀は埋められていく
「力を貸しましょう」
私はロラン公に身体を向ける。頷いてみせると、ロラン公も嬉しそうに頷いた。
「住む場所は用意してある、もともとジェームズの為に用意した自宅兼店舗だ、街の一番人通りが多い一等地だが、住むだけだと一等地じゃねぇな」
面白そうにロラン公が笑った後、どうすると問いかけてくる。騒がしい場所という事だ。別に静かさを求めてはいないが、オリーはどうだろう。
「オリーはどう思いますか?」
振り返るとオリーは少しうつむいて考えているようだった。少し待つと、顔を上げて微笑む。
「何かお店でもやりましょうか」
冗談っぽくオリーが口を開く。お店か。なんだか夫婦で店を開くのは、ちょっと憧れがある。そこまで考えてから、体の熱が急速に上がる。何を考えているのだ。夫婦って!
顔が赤くなっているのがわかるといけないと思い、手で口を覆うとオリーから顔を背ける。
「ミケ?」
オリーの心配する声に、すぐさま心を落ち着けて顔を向ける。
「大丈夫です、ではお言葉に甘えましょうか」
「はい」
オリーの言葉を聞いてから、ロラン公に身体を向け直す。それから恭しく頭を下げて見せた。
「その物件をありがたく使わせていただきます」
「ははっ、分かった」
そう返事をしたと思ったロラン公が、すぐに体を寄せてきて私の首に腕を回してくる。顔は嬉しそうというか、からかう様なそんな笑顔だった。
「というかタジタジだなぁ……わかるぜぇ、美人の嫁さんにはそうなるよなぁ、俺の嫁さんも美人で……」
「まだ結婚はっ」
急いで否定すると、ロラン公は一瞬驚いた顔をして、すぐからかうような笑顔を浮かべる。なにかいうかと思ったら、そのまま離れて立ち上がった。逆になにか言ってくれないと、なんだかモヤモヤする。
「基本的に犯罪行為以外なら何をしていてもいい、俺の求めに……依頼という形にしておこうか、報酬も渡すつもりだし、依頼をした時に優先でやってくれればな」
真面目な顔でそういう話をした後、またからかうような笑顔を浮かべた。
「夫婦で店を開くなら、手続きもこっちでやってやるから言いな」
「なっ、先程も申しましたがっ、ふ」
いや、否定するとオリーを悲しませる。寸前の所で言葉を堪えた。そうしているうちに、オリーが声を上げる。
「はい、その時はよろしくお願いします!」
振り返るとその顔はとても良い笑顔だった。可愛い。いやっ、顔がだらしなくなるのを堪える。シビリティパーソンたるもの、だらしない顔など。
「良い女だ、それに強かだな」
突然、耳元でロラン公の声が聞こえる。咄嗟に振り返ると、ロラン公がからかうような笑顔で囁いた。
「早く覚悟を決めろよ、どんどん外堀を埋められていくぜ……男ならプロポーズを言わされるんじゃ駄目だ、バチッと言ってやるんだよ」




