街に呼びたい理由
「なにか起こりそうな気がする、だからジェームズ様をこの街に呼びたかったのですか」
現在は私の手にあるこの魔道具、レイピアに姿を変える傘の元の持ち主はジェームズだ。あの時は聞きそびれてしまったが、武器を持って何をしていたのか。気になるその辺りを、ロラン公に問いかけてみる。
「しかし、ジェームズ様が街にいてどうなるのです?」
「聞いてないのか」
「友達と言っていただいていますが、付き合いはとても短く」
数日の付き合いだ。しかも街から急いで旅立ったせいで、結局ほとんど話していない。逆にそれでも友人と紹介してもらえているのは嬉しく思う。
「ジェームズと俺は、昔に冒険者をやってたんだ、あいつはめちゃくちゃ強かったぞ、傘がレイピアに変わる魔道具を使ってたな……あぁ譲ったと書いてあったな」
ロラン公が私の手にある傘に視線を送る。サイズが変わっているから、最初は気づかなかったのだろう。
「まぁそういう訳で、ジェームズにはこの街で店をやってほしいと言ったんだ、緊急事態に手を貸してくれれば、基本的に普段は自由でいいって言ってな、ついでに仕立はすべてジェームズに任せてたから、近くなって丁度いいしな」
がはははっと笑うロラン公。良く行く店だから、地元に移転させようとしたわけだ。それだけが理由ではないにしろ、何という豪快な御仁だろう。
それはいいとして、とにかく分かったことは、これからなにか起こりそうということ。だからジェームズに来てほしかった。ジェームズはとても強いから、街での異変を一緒になんとかしてほしかった、ということだろう。
「色々分かりました、ありがとうございます、では最初の質問に戻りましょう、代わりというのは」
そもそも私がここにやってきた理由は、ジェームズの手紙を返す為。この街に来ることを断る為だ。ジェームズの代わりなど頼まれてはいない。
「ジェームズの手紙には、ミケ様はとてもお強い、そして気高く優しい、だから助けを求めれば力になってくれるだろう、って書いてあった、つまりジェームズは代わりにお前らを寄越したんだろう」
拡大解釈も良いところだ。
「ミケ」
今まで黙っていたオリーが、呟くように声をかけてくる。
「何でしょう」
「力になってあげましょう……この街の人達は守るべきです」
オリーの眼差しに力強さを感じる。あぁきっとオリーは、この街を一瞬で好きになったのだ。門からここまで歩いてくる、その短い時間で。それだけの笑顔と、優しい空気がこの街にはあった。
「そうですね、マイレディ」
私は微笑んでオリーに頷く。オリーの守りたいものは、私の守りたいものなのだ。




