ロラン・ティベール公
街ですれ違う人は、ほとんど人間だった。その中にたまにモンスターといわれる人がいる。それぐらいの割合だ。流石に積極的に迎え入れているといっても、数は多くないらしい。
「あなた方も領主様に迎えられましたか」
道を聞いた所で、そう問われる。相手は獣人……ライオンに見える獣人だ。
「はい、そうです」
オリーがにこやかに返す。街に入ってすぐに、シスターのベールを外していた。ここでは嫌な視線も、嘲笑もない。
「良い方ですよ、私も差別に苦しんでいる所にここの噂を聞いて、やってきたら快く迎え入れてもらえて」
「そういう話を聞けて、安心しました」
私が頭を下げると、ライオン獣人も頭を下げて返してくれる。そして最後に、あっ領主館はあっちです、と言い残して去って行った。
ライオン獣人の指さした方向に歩き始めつつ、オリーが嬉しそうに笑う。
「本当に安心して暮らせそうです、もっと早く知りたかったですよ」
二百年は長かっただろう、でもこれからはここで穏やかに暮らせる。私は頷いて返した。
「楽しみですね、どういう方でしょう、領主様は」
ジェームズの昔なじみだから、やっぱりシビリティパーソンなのだろう。スーツに身を包み、恭しく頭を下げる姿を思い浮かべる。私も楽しみだ。
「がははははっ、お前らがジェームズの友達か」
領主館に到着し、紹介状を見せると応接室に通され待っていると、マッチョさんが部屋に現れた。
このお方がロラン・ティベール公らしい。想像よりだいぶ差異があった。もっとこう、細身のスマートな感じを想像していたのだが。
「ジェームズには振られちまったが、お前が代わりになってくれると聞いて、助かるよ」
振られたというのは、ジェームズを自分の街に連れてくることだろう。
「代わりにというのが良く分かりませんが」
さすがに、代わりという言葉に引っかかりを覚えて、問い返す。ロラン公はそれに対して、一度頷いてから口を開いた。
「順を追って話そうか……実はこの街ではな、最近ちょくちょく暴力沙汰が起きてんだ、しかも犯人は分からない」
「暴力沙汰、ですか」
「あぁ……あまりこの言葉は好きじゃねぇが、便宜上仕方ねぇから使わせてもらう……街で迎え入れたモンスターが何者かに襲撃されてるんだ」
襲撃と聞いて、オリーが身体をビクリと強張らせる。平穏に暮らしたいと思っているのに。私はオリーのきつく握りしめられた両手に手を重ねる。ハッしてこちらに顔を向けたオリーに微笑みかけた。
「あいつらは弱くねぇ、だから怪我人も出てねぇから、大事になってねぇが、犯人側からすればだんだんヤケになってくるだろう……近い内に何かが起こりそうな気がしてな……荒くれ者の感ってやつさ、犯人側の思考が分かっちまう」
ますますシビリティパーソンのイメージからかけ離れていく。この人とジェームズが親しいイメージが湧いてこない。すこし苦笑いをしてしまったが、すぐに顔を引き締める。




