二人の行き先
手早く旅に必要な物を手に入れ、シビリティパーソンズ・サロンに戻ってきた。少し疲れた。行く場所すべてというわけではないが、すでにオリーのことが知られている。それどころか、私の事もモンスターではないかと言われる始末。しかも物を売ってくれないところさえあった。
私は実際分類上はモンスターだからその通りなのだが、オリーは違う。ただ肌の色が違うだけで、こんな扱いを受けるのか。
「気にする必要はありません、あの人達は言葉が使える猿です、言葉について深く理解できず、ただ使えると言って振り回しているだけ」
マークはそう口にして微笑む。たしかにそうかも知れない。道具が使えるチンパンジーと変わらない。
「でも、すぐにそういう思いをしなくて良くなるんですよね、ベルネストなら」
オリーは意外と消耗していない。むしろ希望に満ちた表情とも言える。逆に言えば、これまで相当きつい経験をしてきているのかもしれない。やっと終わるという期待がとても大きいのかも。
「申し訳ありません、私の見通しが悪かったようです、マークに行かせれば良かった」
ジェームズが奥から出てくると、そう謝罪する。それに連なるようにマークも口を開いた。
「私もその提案をすべきでした、申し訳ありません」
二人の謝罪に、オリーがすぐに反応する。
「良いですよ、私は意外と気になっていません、ミケと二人で普通に過ごせる場所に行けるって思えたら」
満面の笑みを浮かべて、オリーが屈む。私と視線を合わせて、手を差し出してきた。握手とかの手ではない。手を繋ぐ。そういう事だろう。差し出された手を握り返す。手が人間ではないから、うまく握り返せないが。
「肉球の感触が、あぁ」
オリーが私の手を、ムニムニと握り始める。
「おやめなさい!」
私は手を離すと、そう声を上げた。オリーはあぁんと口惜しそうな声を上げる。
「レディが変な声を出すのではありません、はしたない」
「はぁい」
口を尖らせたオリーが、つまらなそうに返事をした。それからまた微笑むと、手を差し出してくる。私もその手を握り返した。
「行きましょう、ベルネストへ」
「はい、行きましょう」
二人で少しの間見つめ合う。それからふと気づくと、ジェームズが微笑んでこちらを見つめていた。少し恥ずかしくなる。
「手紙をお願いします……それからお二人の純白の礼装は是非当店で承りたく存じます」
「ま、まだそういう事は」
何となく恥ずかしくなって、そんな事を口走ってしまった。それを聞いたオリーが頬を膨らませて怒る。それを何とかなだめていると、ジェームズとマークが面白そうに控えめに笑っているのが見えた。




