旅の支度
「とはいえ、手紙の返事を書かなければ失礼ですので、紹介の件を含めて手紙を書きます、少々お待ちを」
「ありがとうございます」
この手紙だけを持っていった場合、相手側からしたらどういう事だと混乱しかねない。盗みに入って手紙を持ってきたのかもしれないと思われるかも。ジェームズが託したという証拠があると助かる。
手紙を書くために、ジェームズが立ち上がった。それから思い出したように、口を開く。
「旅の支度が必要でしょう、手紙を書くのに少しお時間を頂きますので、その時間を使うとよいでしょう、マークご案内を」
「はい」
声をかけられたマークも立ち上がる。旅には支度が必要だが、何分お金がない。そう思うと、結構詰んでいるのでは。私はオリーに顔を向ける。蓄えはどれくらいあるだろうか。最終的に返すとしても、二人分の旅の支度をできるだろうか。
「お金……そうですよね」
オリーが察したらしく、考えるように少しうつむく。自分の懐具合を思い出しているのだろうか。シビリティパーソンとして、情けない。
「大丈夫ですよ、手紙を運んでもらう報酬は出しましょう、それを支度金にしてください」
「しかし! ……あっいえ」
こればかりはもう、甘えるしか無い。今の所獣でしか無い自分を恥じながら、頭を下げた。
「ありがとうございます」
「本当に助かりますね」
日が昇り朝になった街を、オリーとマーク、私で歩く。旅をするのに、それなりに準備が必要とは、前世の世界は科学の発展が素晴らしかったのだな。そんな事をしみじみと考える。
「お互い様です、オリビア様」
マークがそう答えた。すこし気持ちが軽くなったという感じの表情だ。店の移動の件で、ある程度は納得できたのだろう。多少意見の食い違いはあるだろうから、完全に納得は難しいだろうが。
「そういえばジャケットは返却しなければいけませんので、一時的な代わりの物を手に入れたいです……なにか良いものは」
もはやジェームズの仕立てたスーツ以外は、袖を通したくない心持ちである。しかしそうも言ってられない。なのでせめてちょっとした服を着ておきたい。獣人に見えるぐらいには。
「子供用のシャツとズボンを手に入れましょうか、ミケ様には当店の仕立てたスーツを着て頂きたい、他のスーツは出来れば袖を通さないでほしいと、つい思ってしまいますので……わがままを言って申し訳ありません」
「いえいえ、私も今ちょうど同じようなことを考えました……」
私はそこまで言うと、どこかから向けられている視線と囁き声に気づく。どこから。周りを見回すと、チラホラといる街人がこちらを見ながらヒソヒソと話をしていることに気づく。
「やっぱり、そうなりましたね……ダークエルフとバレた時のいつもの反応です」
オリーがポツリと呟いた。もう広がっているのか。一晩しか経っていないのに。コメディオ達はもしかして、それなりに大きい組織だったのだろうか。
「急ぎましょう」
表情を険しくしたマークが、低い声を響かせる。




