行き先
「ジェームズ様」
マークが思いついたように、声をかける。
「えぇ、私も同じ事を考えました」
ジェームズが失礼と断ると、席を立つ。以前傘を取りに行ったおそらくバックヤード的な場所に入っていくと、一つの手紙を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました」
ジェームズが小さく頭を下げると、元の席に戻り手紙を開く。何だろう。封蝋がされているが、封は開けられているらしい。
「この手紙はさる御方から頂いた物です」
私は思いつくことがあり、自分の着ているジャケットに触れる。このジャケットは、さる御方の御子息の物と聞いた。
「えぇ、ミケ様、そのさる御方です」
マークにスラム街を案内してもらっている時に聞いたが、ジェームズはさる御方から治めている街に来てくれないかと誘われていると言っていた。あの手紙がそうなのだろうか。
「さる御方……ベルネストの街の領主様、ロラン・ティーベール様、私の昔なじみで、シビリティパーソンズ・サロンのお得意様です」
ジェームズが手紙を読み返しているようで、目を細めている。それから手紙を丁寧に折りたたみ、元の封筒に収めた。
「彼は、とても人格者で差別など無くなればいいと、普段から真剣に考えている御方でございます、そして積極的に人と友好的な者を街に住まわせ、共存の街を作ろうとしています、もちろん差別に苦しむオリビア様の様な方も受け入れているのです」
私とオリーが、同時にお互いの顔を見る。驚きと喜びが混じり合った様な顔。まさに渡りに船とはこの事だ。
「ミケ様とオリビア様をロラン様にご紹介致しましょう、彼の街におられると分かっているのであれば、仕立てたスーツをお渡しする事も容易です」
同時にいくつかの問題が解決した。行き先が決まり、スーツも手に入る。後はお金を稼がなければならないが。街で差別もなく過ごせるのであれば、当初の予定通り冒険者に勤しめば良い。
「ミケ、やりました! ジェームズさんもありがとうございます!」
今にも椅子から飛び上がってしまいそうなくらい喜んでいるオリー。その姿を見ていると本当に嬉しくなる。
「……それで一つ、お願いがあります」
オリーが落ち着くのを待ってから、ジェームズがそう切り出した。ここまでしてもらってこちらからは何もできないのは、落ち着かない。私はもちろんですと、すぐさま返事をする。
「ありがとうございます……それではこの手紙をロラン様にお返しいただき、お誘いをお断り申し上げますと、託け願えますか」
ジェームズは封蝋のされたロラン公からの手紙を、こちらに差し出してきた。




