オリー
日が昇り、チラホラと早い人が活動を始めている。この街は露店などは出ていないから、朝はそれほど早くない様に思う。露店が出るような活発な街なら、早朝のこの時間から人が沢山居るのだろう。
「シビリティパーソンズ·サロンは、もう準備を始めているでしょうか」
あまり知識がないから分からないが、イメージとしては仕立て屋の営業時間が速い必要はない気がする。
「まだ迷惑かもですね」
オリビアが少し怯えた様子でそう口にする。シスターのベールを被り両手で押さえている。加えて少し背中を丸めて、軽く挙動不審に歩いていた。
「オリビア嬢」
「はい?」
声をかけるとオリビアは、こちらに顔を向ける。軽く笑みを浮かべているところを見ると、それほど深刻な感じはしない。
「宿で待っていて頂いてもよろしいですよ?」
深刻な感じはしないが、少しでも不安なら落ち着ける場所にいてほしい。そう思っての提案だったが。オリビアは頬を少し膨らませて見せる。
「またそうやって」
「申し訳ありません」
親切のつもりが、また空回りになってしまったらしい。
「この際だから言いますけど、その呼び方もやめてほしいんですよ」
呼び方と言うと、名前に嬢をつけていることだろうか。様をつけるのは流石に余所余所しいかと思いその呼び方をしていたが。ただ、かすかに覚えているのは、名前に嬢をつけて対面で呼ぶのは失礼だった気がする。
「余所余所しい感じがするというか、ミケさんと私の様な……こ……仲、なら」
オリビアが突然顔を赤らめて、言葉を詰まらせる。それからすぐに言葉を続けた。
「それに、子ども扱いされているような感じがします」
確かにお嬢さんとかご令嬢とか、そういう意味合いなのだ。子供扱いに当たる。ただ前世の年齢からすると、オリビアは年下。そういう扱いをついついしてしまう。
オリビアが声を潜めて続ける。
「ミケさんも長命種なので、年上年下は分かりませんが、私だって長命種で、二百年程生きてるんですから、少なくとも子供じゃないんですから」
最後の方の言葉だけ、声のボリュームが上がる。そういえばエルフは長生きだった。ケットシーとしてどれくらい生きているのか分からないが、前世の感覚としてはオリビアは歳上であった。異世界ファンタジーでは見た目は当てにならない。
「申し訳ありません」
私は立ち止まると、頭を下げる。呼び方も難しい。まだまだ未熟者である。
「じゃあ」
オリビアの声が聞こえる。それから足音がした。顔を上げると、道の少し先に移動しているオリビアの背中が見えた。
「オリーって愛称で呼んでください、それで許してあげます」
愛称で呼ぶ。ちょっと恥ずかしい。だが、スマートに澄ました声で呼ぶのがシビリティパーソンである。
「オ、オリー」
ぐぬぬ。
「はい! ミーちゃん!」
オリビアが、いやオリーがこちらを振り向く。朝日に照らされたオリーの顔は、少しいたずらっぽい笑顔で、それでいてはにかんでいた。そして何より朝日のせいなのか、とてもキラキラと輝いて見えた。




