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猫紳士たるもの、猫じゃらしで遊ばれるなどありえません。  作者: 高岩 唯丑
第一話

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やっと言えた

「い、いま?」


 何だろう。今何か。


「大切な人って」


 オリビアの声が上ずった。何げなく言った言葉が、オリビアにとってはとても嬉しい言葉だったらしい。喜ばせたかったわけではなく、ナチュラルにそう思ってたから口にしただけだ。


「大切で大事な人なのでそう言ったのですよ」


「ん~~ッ!」


 両手で口を押さえて、小さくジャンプするオリビア。そこまでうれしく思ってくれると、こちらも浮かれてしまいそうになる。ただ、それで距離を詰めて失敗した事は何度かあるのだ。今こそ落ち着いてシビリティパーソンになるのだ。

 それに状況を考えれば、現実逃避のためなのかもしれない。少し可哀想だが、ちゃんと話さなければ。


「盛り上がっている所、申し訳ありません、嫌かと思いますが、話を戻しましょう」


「それに関しては……ミケさんが一緒にいてくださるならそれで」


 オリビアの声が尻すぼみに小さくなっていく。それに比例して、顔の赤みが増していった。何と言っているのか聞き取れない。


「申し訳ありません、今なんと」


「……別の街に行けば済むので」


 少し顔の赤みが残った微笑みで、オリビアがそう言う。その表情に少なくとも諦めの色は見えない。選択が正しいのかは分からないが、今はそれで良いのかもしれない。


「では一緒に、別の街に行きましょう、そこから改めて二人の冒険を始めましょうか」


「はい! 一緒に」


 オリビアが、はにかむ。それを見て顔がだらけてしまいそうになるのを必死で堪えて、私は小さく頷いて微笑む。とりあえずこれで、言いたかったことを言うことができた。これからも一緒に。遠回りをしてしまったけれど。よかった。



 話はまとまったが、一つだけ問題があった。スラム街の道をオリビアと歩きながら、口を開く。


「シビリティパーソンズ·サロンへの仕立ての依頼の件だけが問題です」



「私のワガママですみません」


「いえ! そんな事はありません、オリビア嬢が謝ることでは」


 歩きながらも頭を下げるオリビアに、すぐに言葉を返す。


「仕立ては改めて別の場所で頼めばよいだけです」


 非常に残念だが、本音ではあの店で是非仕立てていただきたいのだが、もう大事な人を蔑ろにはできない。


「ダメですよ! あのお店をすごく気に入っていたでしょう、私の方が完成するのを待ちます、宿の部屋に閉じこもっていれば嫌な思いもしませんから」


「……現実的な話としてお金が足りません、この街で活動しないとなると、お金の準備が」


 待っている間に、お金を稼いでいこうと思っていたのだ。それができないとなると、私が諦めるのが良いのだろう。


 オリビアが黙り込んでしまう。表情に影が差していた。こんな顔をさせたくない。


「シビリティパーソンズ·サロンで相談してみましょう、まだ諦めるのは早いですね」

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