やっと言えた
「い、いま?」
何だろう。今何か。
「大切な人って」
オリビアの声が上ずった。何げなく言った言葉が、オリビアにとってはとても嬉しい言葉だったらしい。喜ばせたかったわけではなく、ナチュラルにそう思ってたから口にしただけだ。
「大切で大事な人なのでそう言ったのですよ」
「ん~~ッ!」
両手で口を押さえて、小さくジャンプするオリビア。そこまでうれしく思ってくれると、こちらも浮かれてしまいそうになる。ただ、それで距離を詰めて失敗した事は何度かあるのだ。今こそ落ち着いてシビリティパーソンになるのだ。
それに状況を考えれば、現実逃避のためなのかもしれない。少し可哀想だが、ちゃんと話さなければ。
「盛り上がっている所、申し訳ありません、嫌かと思いますが、話を戻しましょう」
「それに関しては……ミケさんが一緒にいてくださるならそれで」
オリビアの声が尻すぼみに小さくなっていく。それに比例して、顔の赤みが増していった。何と言っているのか聞き取れない。
「申し訳ありません、今なんと」
「……別の街に行けば済むので」
少し顔の赤みが残った微笑みで、オリビアがそう言う。その表情に少なくとも諦めの色は見えない。選択が正しいのかは分からないが、今はそれで良いのかもしれない。
「では一緒に、別の街に行きましょう、そこから改めて二人の冒険を始めましょうか」
「はい! 一緒に」
オリビアが、はにかむ。それを見て顔がだらけてしまいそうになるのを必死で堪えて、私は小さく頷いて微笑む。とりあえずこれで、言いたかったことを言うことができた。これからも一緒に。遠回りをしてしまったけれど。よかった。
話はまとまったが、一つだけ問題があった。スラム街の道をオリビアと歩きながら、口を開く。
「シビリティパーソンズ·サロンへの仕立ての依頼の件だけが問題です」
「私のワガママですみません」
「いえ! そんな事はありません、オリビア嬢が謝ることでは」
歩きながらも頭を下げるオリビアに、すぐに言葉を返す。
「仕立ては改めて別の場所で頼めばよいだけです」
非常に残念だが、本音ではあの店で是非仕立てていただきたいのだが、もう大事な人を蔑ろにはできない。
「ダメですよ! あのお店をすごく気に入っていたでしょう、私の方が完成するのを待ちます、宿の部屋に閉じこもっていれば嫌な思いもしませんから」
「……現実的な話としてお金が足りません、この街で活動しないとなると、お金の準備が」
待っている間に、お金を稼いでいこうと思っていたのだ。それができないとなると、私が諦めるのが良いのだろう。
オリビアが黙り込んでしまう。表情に影が差していた。こんな顔をさせたくない。
「シビリティパーソンズ·サロンで相談してみましょう、まだ諦めるのは早いですね」




