見誤ってしまった
うにゃーん。うー。
「ゴロゴロゴロ、うにゃあ」
にゃーにゃっにゃー。
「はっ、失礼取り乱しました……というかおやめなさい!」
いつの間にか、オリビアの膝のうえで仰向けになっていた。すぐさま起き上がると、膝の上から退避する。
「あぁん……ミケさん」
名残惜しそうに、オリビアがわずかにこちらに手を伸ばす。
「変な声を出すのは、おやめなさい……それより」
立ち上がり、ジャケットを掴むと下方向に引っ張りながら整える。それから、傘を拾い上げて、柄を両手で上から押さえるように床につく。
「早く帰りましょう……疲れたでしょう」
窓の方に目を向けると、かすかに朝日が入り込んできている。すでに空が白んできているだろう。
「……はい」
少し俯いて掠れる声で返事をするオリビア。しかし、一向に立ち上がろうとしない。立ち上がれないほどに、疲れ果ててしまったのだろうか。
「失礼、配慮が足りませんでしたね、もう少し休みましょうか」
「いえ」
オリビアは返事をして、のそりと立ち上がる。途中まで表情が見えなかったが、身長差のおかげで下から見上げる形になり、その表情がやっと見えた。
悲しそうな表情。街へと戻ることを嫌がっている表情。その表情を見て初めてその露出してしまった耳に目がいく。
そうか。ダークエルフとバレてしまった。そして、その秘密を知ったコメディオ達を生きて返してしまった。やられたお返しにこんなことをする輩だ。敏感にオリビアがやられて嫌な事を感じ取り、実行してくる可能性がある。
「申し訳ありません、オリビア嬢の秘密を知った輩を生きて返してしまって考えが足りませんでした」
何とお詫びしてよいやら。自らの主義や信念を優先したばかりに、一番護らなければいけない人を蔑ろにしてしまった。
頭を下げてどうにかなる問題ではないが、下げずにはいられない。
「ミケさんが謝ることではありません! 悪いのはあくまであの人達で」
「主義や信念より、オリビア嬢の方が大事で大切な人、良く考えればどうすべきだったか明白」
私はそこまで言って、頭を上げる。
「オリビア嬢?」
その表情を見るのが怖かったのだが、想像とはだいぶ違った表情をオリビアは浮かべていた。
両手で口を押さえて、顔を真っ赤にしている。なんで?
「オリビア嬢? どういう事でしょう」
軽く頭がパニックになった。だいぶ真面目な話というか、深刻な話をしていた筈だが。照れているように見える。カッコイイ事を決めた覚えはないのだが。
「ミケさん……今」




