マイレディ
準備が整った。すぐさま駆け出すと、コメディオの眼前に移動する。まずは先頭であるコメディオだ。
「少し痛いですよ」
コメディオは、そもそもこちらの動きに反応できていない。これでは不意打ちではないが、不意打ちのようになってしまう。それが嫌で一言声をかけたのだ。
コメディオは私の声に反応した。反応しただけでまだ、対応するための動きを見せていない。これ程までに実力差があるとは。私は自分の実力に素直に驚きつつ、コメディオのみぞおちを一気に貫く。
「はっ!」
私のあげた声とともに、コメディオの足が浮き上がり、そして後ろ方向に一回転して吹っ飛んだ。後ろにいた手下たちの内の二人がそれに巻き込まれて、残ったのは二人は何が起こったのかわからないという顔で、目を白黒させていた。
「団長!」
残った二人が、やっとコメディオたちの方を振り向き声を上げた。だいぶ反応が遅い。コメディオが団長と呼ばれているという事は、単純に考えれば残った二人は更に弱いという事。弱い者イジメは、シビリティパーソンのすることでは無い。向かってくるのであれば、敬意を持って全力でお相手するが。ここで終わりにする提案をするのが妥当か。
「いかがいたしましょう……戦うのであれば全力でお相手いたしますが? 終わりにするのであれば、追い打ちなどはいたしません」
手下二人が顔を見合わせる。その後の決断は早かった。言葉をかわすこともなく、二人は同時に倒れている者たちに駆け寄り、介助しながら立ち上がらせて立ち去っていく。両脇を支えられ、引きずられるように歩くコメディオ。しかしその去り際、脂汗まみれの中に鋭い眼光を一瞬見せた。
そうして、コメディオたち一派は建物から退散していく。
「オリビア嬢!」
危険は去った。私は意外と緊張していたらしい。一瞬緊張の糸が切れ座り込みそうになったが、何とか踏みとどまり、オリビアに駆け寄る。猿ぐつわと腕だけを縛られている。すぐに解放できる。
「ミケさん!」
猿ぐつわを外してすぐに、オリビアがそう叫ぶように声を上げる。まだ縄を切っている最中だというのに、オリビアがこちらに向かってこようとしていた。
「落ち着いてください、オリビア嬢……」
肌を傷つけないように、レイピアで縄を切ろうとする。少し切れ目が入り、少し緩んだ縄からオリビアは強引に抜け出ようとする。
「ちょっ、待って、くだ」
肌が縄に擦れて傷がつく。それでも構わないという感じで、自ら解放されたオリビアが私に飛びつくように抱きついてきた。勢いで床に倒れ込む。
「……遅くなり申し訳ありません、マイレディ」
「……はい」
私の胸に顔を押し当てるオリビア。私の腰に回された手に、少し力がこもるのを感じる。ジャケットは多少ボロボロにしてもいいと言われたが、この場合はどうだろう。少しそんな事を思いつつ、オリビアの頭辺りを抱き返した。




