望んだ形に
決まった。かっこよく決めることができた。それでは、早くオリビアをたすけ……おや、レイピアがぐにゃりと曲がって……。
ふにゃふにゃにゃにゃにゃにゃ!
「うにゃっ! うにゃうにゃうにゃ!」
にゃにゃにゃにゃ、うにゃぁあぁ!
「はっ、失礼、取り乱しました」
床に転げた状態で、正気を取り戻した。何ということだ。またやってしまった。かっこよく決まったのに、台無しではないか。というか、猫じゃらしが突然出現した気がするが。
「なっ、舐めてんのかてめぇ!」
呆気にとられて、固まっていたコメディオ達が思い出したように声を荒げる。
「あの時もふざけた事しやがって、やっぱり許せるわけがねぇ」
コメディオの声に合わせて、手下どもも声を上げた。怒りの突撃を今にもしてきそうだ。
「くっ、レイピアを」
周りを見渡すと、どこにもレイピアがない。あるのは妙に大きいが、見覚えのあるサイズ感の猫じゃらしのみ。いや、よく見たら柄がレイピアのそれではないか。
「私が望んだのかね?!」
使用者の望んだ姿に形を変える魔道具。つまりはそういう事なのか!
「くっ、一旦その事は脇においておきましょう」
コメディオ達がそれぞれの武器を、こちらに振り上げている。もう一瞬先には、武器が振り下ろされるだろう。目で追えない速さではない。というか、すごくゆっくりに見える。実力差だろうか。武器を用意するまでもなかったかもしれないが、煽ったりバカにしたりはしない。シビリティパーソンたる者、敬意を持って全力でお相手する。
床に落ちている猫じゃらしを掴み上げると、そばから飛び退いた。床が砕け散る音が響く。さて、どうするか。これではなと思いつつ、手にある猫じゃらしを見る。しかし、猫じゃらしだった物は、レイピアに形を変えていた。どこも変な所はなく、正真正銘ちゃんとしたレイピアだ。
「よろしい、では参りましょうか、相棒」
気を取り直して、飛び退いた私に気づいていないコメディオ達に、レイピアの切っ先を向ける。
「こちらです」
「くそが、避けられた!」
コメディオ達がもう一度武器を振り上げて、こちらに駆けてくる。とりあえず、無闇に命を奪うのはシビリティパーソンではない。その様な場合は、命と誇りをかけた真剣な決闘の時のみだ。この様な小競り合いで命を奪うべきではない。
「私の望む形に……刃をなくしたレイピアに、お願いします」
レイピアの切っ先が丸くなった。これで、突いても痛いだけだ。




