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猫紳士たるもの、猫じゃらしで遊ばれるなどありえません。  作者: 高岩 唯丑
第一話

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30/73

ジャケット

 店の中央にあるテーブルに着席してしばらく待っていると、奥からジェームズが戻ってくる。小さめのジャケットを両手に掲げる様に持っている。


「こちらはさる御方の御子息のジャケットにございます」


「さる御方、それに御子息ですか」


 ジェームズが人の物を何の断りもなく、人に貸し出すとは思えない。なにか理由があるのだろうと、次の言葉を待つ。


「その御子息は成長著しく、仕立ても瞬く間に身体に合わなくなります、合わなくなるたびに仕立てをしていては、贅沢すぎていけないとの事」


 感心するように一度頷いてから、ジェームズは続ける。


「そこで、合わなくなったスーツ一式を再利用して、新しいスーツを仕立ててほしいと……なかなか無理難題を仰る」


 ジェームズは苦笑を浮かべた。それでも心なしか嬉しそうでもある。確かに自ら仕立てた物を長く着る努力を使用としてくれるのは、仕立て屋としては嬉しいのかもしれない。


「話が脇にそれて申し訳ありません、つまりこのジャケットは多少ボロボロになっても問題ありません」


「そういう理由でしたか……ではありがたく使わせていただきます」


 立ち上がり恭しく頭を下げる。どなたか存じ上げないが、見えないさる御方にも礼を尽くす。


「ではこちらへどうぞ」


 ジェームズに促され、姿見の前に移動した。後ろに立ったジェームズが、ジャケットを広げて着るのを手伝ってくれる。


「やはり、少しサイズが大きいですね、それに肩が合っていない」


 着せてもらったジャケットは、裾が膝のあたりまできてしまっている。それに、肩がダラリとしていて、少しみっともない。何より色がクリーム色で、私の好みに合っていない。毛色のこともあるし、黒がいいのだ。それでも、裸のような状態より百倍マシだ。


「ありがとうございます、マント一枚よりよっぽど」


 私は傘を床に立て、柄を両手で上から押さえるようにして持つ。これは! オーダーしたスーツが出来上がるのが楽しみだ! これよりもスマートになれるのだ!


 ついニヤニヤしてしまうと、鏡に映ったジェームズがそれを見て微笑んだ。見られてしまった。


「コホン……失礼、取り乱しました」


「いえ、喜んで頂けたなら嬉しいですよ」


 恥ずかしい。今後は顔に出さないようにする事が、課題である。


「……ジェームズ様、発見しました」


 突然横から声が聞こえて、咄嗟にそちらに顔を向ける。いつの間にかそこに弟子……この店を訪れた時に、オリビアに椅子を勧めていた青年が立っていた。


「ありがとうございます、ではミケ様をご案内差し上げてください」

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