助けを呼ぶ声
「ここどこだよ……それ以前に街に入れるのかな」
ケットシーとしての記憶では、全く街に興味もなかった。人間にも興味がなく、こんな森の中で一人で気ままに生きていた。
いくら思い出しても、使えそうな知識がない。
しかし、この状態では、誰かに手伝ってもらうしかない。でも、人間に出くわしたら、攻撃されるのではないか。
悩んでいると微かに悲鳴のような声が聞こえる。
「今、悲鳴……結構遠くの方まで聞こえるんだな」
いや、感心している場合じゃない。
「俺の……いや、私の目指すべき紳士は女性を見殺しになどしない」
左手を腰に当て、姿勢を正す。それからエクスカリバーを体の外側に一度振り、顔の前に立てる様に構える。
「すぐに参りますので、しばしのご辛抱を、お嬢さん」
声が聞こえた方へ駆け出すと、自分でも驚くほど素早く動ける。森の中だっていうのに、ほとんどスピードを緩めることなく、木々の間をすり抜けられる。動体視力が優れているのだろう。自分の速さで障害物を目で追えないという事がないのだ。
それなりの距離があったはずなのに、もうすぐそこまでたどり着いていた。まだ視認はできないが、蹄を踏みしめる音と、衣服を土に擦らせる音が聞こえる。四つ足の獣ににじり寄られて、尻もちをついた状態で後退っているという状況らしい。