動くべき時
もし間違っていたとしても構わない。第一に考えなければいけないのは、オリビアの安全だ。勘違いだったとしても、キモい猫と言われるだけだ。オリビアが傷つく可能性を排除できるなら安いものだ。
「しかし、相手がわからないとなると、丸腰では」
爪はあるが、人間としての認識があるからなのか、違和感がある。先刻使ってみて理解した。
「レイピアを購入しましょうか」
いや、お金はオリビアが持っている。私は無一文なのだ。そこまで考えて、思い至る。
「そうでした、オリビア嬢がお金をすべて持って消えるとは思えませんね」
性格を考えれば、怒っていたとしてもお金に関してなにかアクションがあるはずだ。それも無かったとなると、やはり。
「仕方がありません」
私は踵を返して、シビリティパーソンズ·サロンに戻る。
「失礼いたします、ジェームズ様、お願いがあるのです!」
店に飛び込むと、ジェームズが驚いた表情をこちらに向ける。それから私の慌てようを見て、察したようだ。表情が険しくなる。
「何なりとお申し付けください、貴方様はもうすでに我が店の会員、シビリティパーソンでございます」
「ありがとうございます」
ジェームズの言葉に胸がグッとなる。体が勝手に動き頭を下げていた。紳士、いやシビリティパーソンらしからぬ、体育会系の様なお辞儀になってしまった。ジェームズがお急ぎなのでしょう、と促してくる。あまり時間はかけられない。勢いよく頭を上げて、声を上げた。
「オリビア嬢が、私の連れが拉致されたようなのです! 助けに行きたいのですが、お金はオリビア嬢が持っていて、私は無一文で……失礼と無茶を承知で伺いますが、武器になるようなものはございませんか?」
ここは仕立て屋。もちろん武器など扱っていない。それでもステッキでもあれば、幾分かはマシになると思った。
「なるほど、この時のために、でしょうか」
殆ど聞こえないような小声で、ジェームズがそう呟いた。猫の聴覚のおかげで聞こえたようなものだ。
「少々お待ちください」
そう頭を下げた後、ジェームズは優雅に、しかし素早く部屋の奥に入り何かを持って戻って来る。黒い長めの棒状の何か。
「傘、ですか」
シンプルな黒い傘。ジェームズはそれを大事そうに持ってこちらに歩み寄ってくる。
「私の若い頃使っていた傘です……お見せしたほうが早いですね」
そう言ってからジェームズが傘の柄を右手で掴む。左手は後ろ手に回し腰へと当てた。一度傘を体の外側に振って、すぐ胸の前に立てるように構える。
「これは……」




