私のような者に
ジェームズはニコニコと微笑み、オリビアを眺める。子供を見るような感覚だろうか。優しい眼差しだ。
「それで、今日はどの様なご要件で」
自己紹介が終わった所で、ジェームズがそう切り出した。私は一歩進み出て、身近らの気持ちを口にする。スーツを着たいという思いを。
「私のスーツを欲しいのです、私のような者にも売っていただけるのでしょうか」
少し不安も感じる。もし売ってもらっても、獣人が着ることでこの店の評判を落としてしまわないか、そんな不安だ。
「ミケ様、もちろんです、当店のスーツは貴方のような礼節を身に着けた方にこそ着て頂きたい」
私の不安をすべて分かったうえで、という様な優しい口調で、ジェームズが微笑む。嬉しかった。私のような付け焼き刃の紳士が、本物に認められたという嬉しさだ。
「ただ、ミケ様の体のサイズでは、仕立てるのに……それなりの時間を頂いてしまいます」
申し訳ありません、という言葉とともにジェームズが頭を下げた。それに対して慌てて言葉をかける。
「頭を上げてください、作っていただけるだけでとても有難いのです、それに」
正直な所、お金の問題があった。だが、時間がかかるのであれば、お金を用意する時間を得られる。
「情けない話ではありますが、少しお金の手持ちが心許ないもので、しかし、このお店に一目惚れして、是非ここのスーツに身を包みたいと考えまして、飛び込んできてしまったしだいで……お金は必ず用意いたします」
なんとか自分の思いを必死で伝える。それが伝わったからかどうかはわからないが、お金もないのに店に入って来たことを咎められる事はなかった。
「嬉しい限りです、その様に思っていただいて」
ジェームズが恭しく頭を下げた。私もそれに合わせて、頭を下げた。スーツを手に入れられそうだ。やっとである。嬉しくて飛び上がりそうになるのを必死で堪えた。
「では早速、採寸をさせていただけますでしょうか? それから、ミケ様のこだわり等をお聞かせ願えれば、仕立ての参考にさせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
「ではこちらへ……お連れ様は紅茶をお出しさせていただきます」
「あぁっ、お構いなくっ」
いきなり話題が自分に向いた事に驚いたらしく、オリビアが慌てて声を上げる。そういうわけにも行くまい。どこからともなく現れた若い見習いらしい男が、椅子を引いてオリビアに進めていた。
私の方はジェームズに促され採寸室に向かう。
心が踊る。これでちゃんとした紳士になれる。




