一悶着
冒険者ギルドの中。少し酒場らしさのある、机や椅子が乱雑に置かれている。そこにはガラの悪そうな冒険者たちが、いくつかのグループに分かれてたむろっていた。手には例に漏れずお酒の入っているであろう木製のジョッキ。そして、入ってきた私たちをギロリと睨む。オリビアが緊張した意味が少しわかった気がした。
とりあえず、目を合わせないようにする為に、ギルドの奥に目を向ける。そこには受付があり、受付嬢が座ってこちらの様子をうかがっていた。
「あちら……です……か」
わざわざ目を合わせないように受付の方に目を向けたのに、一つの冒険者のグループが私の視界にわざわざ入ってくる。コメディ映画のようなフレームインの仕方だ。
「おぉい! 新人がよぉ! 俺様にガンつけやがったぜぇ!」
いや、そっちから私の視界に入ってきたのだろう。もうちょっとマトモなイチャモンの付け方はできないのだろうか。コメディ映画の登場人物なのか?
「そ、そんなっ、睨んでなんて」
オリビアが慌てて、声を上げる。正論ではあるが、コイツらに通用するわけがない。
「俺様が間違ってたって言いたいのかぁ?!」
冒険者のグループのリーダーらしき男がヒートアップする。というかオリビアは、こんな所でよく今まで無事だったな。
すぐにオリビアが何かを言い返そうとしたが、それを制して一歩前に出る。
「失礼いたしました、その様なつもりはありませんでしたが、不快な思いをさせてしまったのであれば、謝罪いたしましょう」
私は恭しく、頭を下げる。これで引いてくれればいいが。
「謝ったぜぇ、非を認めるってこったなぁ!」
「何卒、ご容赦を」
私は頭を上げずに言葉を重ねる。
「じゃあ、詫びの印にこのシスターのねぇちゃんに一晩相手をしてもらおうかぁ、ずっと味わってみたかったんだ、グヘヘッ」
リーダー男が私の脇をすり抜けて、オリビアに近づく。しまった。そう思い頭を上げて振り返ると、オリビアの腕を掴み上げているところだった。
「きゃっ……やめてください! ミケさん」
涙を浮かべた目で、オリビアが私を見つめてくる。遅かった。紳士としてもっと早く行動すべきだった。オリビア嬢に怖い思いをさせてしまった。悔やむ思いを胸に抱きながら、床を蹴り動き出す。
素早く男の側に移動して飛び上がり、頭を猫パンチで下方向に押し付ける。情で爪を立てないでおいた。肉球でそれほどダメージはないだろう。
「うおぉ」
男は声を上げて、前のめりによろけた。人間は倒れそうになると防御行動として、床に手をつこうとする。男も当然、その反応を示して床に手をつこうと、オリビアを放した。すかさず、オリビアの腰に手を当てる。
「失礼、オリビア嬢、こちらへどうぞ」
オリビア嬢を、男とその一味から離すように、私の背後にエスコートする。オリビアは少し驚いた表情をするが、安心させるために私は微笑んでみせた。




