憧れだった事
「というか、喋れてる」
あまりケットシーというものを知らないが、そういう物なのか。そして、二足歩行まで出来ている。
たまたま目にとまった良い感じの棒を掴むために歩いてみる。
「歩みは軽やかだ」
よちよち歩きでもない。しっかりと歩くことができた。
「次は手だ」
足元に落ちた棒を拾い上げる。感覚は少し違うが、ほとんど人間だった時の触感と変わらない。動かし方も、動きも。
「とりあえず、この良い感じの棒はエクスカリバーと名づけよう」
それにしても、猫なのに人間と同じように、いや人間だった時より体が軽い。イメージした動きを体現できる体だ。
エクスカリバーを軽く振ってみる。突きをしてみたり、袈裟斬りをしてみたり。飛んで跳ねて宙返り。本当に何でもできそうだ。
「……身体能力が高い」
猫も高いと思うが、今の俺はケットシー。さらに高い能力に、これからも成長していける余地もありそうだ。
「新しい人生……いや猫生どっちでもいいか」
とにかく新しく生き直せるという事だ。
思い返すと、仕事の記憶しかない。それしかしていない。ブラック企業の社畜として、三十代まで目の回るような忙しさで。
やり直せるとしたら……いや、やり直せるんだ。これが夢でなければ。
「ずっと憧れていたことがあった気がする」
アニメや漫画が好きだった。そういう物に必ずと言っていいほど出てくるキャラクター。
「……紳士」
丁寧な言葉遣いに、冷静な態度。さらに圧倒的に強い場合が多い。そんなキャラに憧れがあった。ただ実世界でそんなキャラを演じていたら、社会からつまはじきにされてまともに生きていけなかったから、憧れを実現させようとしなかったが。軽く礼儀正しくて真面目な程度。というか忙しくて疲れて、それも結局疎かになっていた。
「憧れが実現できる」
しかも今は猫だ。猫紳士ってとってもありじゃないか。カントリーなロードのアニメにも出てきたし。それ以外にも、猫と紳士は相性がいい。
「羽飾りのついた帽子に、スーツ、レイピアをもったら完璧……かっこいいじゃないか」
でもその装備を手に入れるためには、街に行かないといけないけど。