イタズラ
「ちょ、ちょっと、おまえ……モンスターじゃないよな?」
予想通り、私を見た門番が駆け寄ってくる。怪訝そうな表情だ。仕方がない。実際はモンスターだが、それを獣人と偽って街に入るのだから。
「私ですか? 獣人です……少し毛深いのがコンプレックスですが」
少しジョークを交えて微笑んだあと、少し大げさに演技かかった素振りで頭を下げる。こんな事ができるモンスターはいないであろう。
頭を上げてみると、門番の表情は少し戸惑った物だった。判断に迷っている、という感じだろうか。
「あぁ……そ、うか」
門番はもう一人居るが、偶然人通りが多いタイミングだ。二人で怪しい者の確認をしなければいけないのだろう。門番はすこし周りと私を見比べて、迷っている。
「門番さん、私がこの方の事を保証します」
オリビアがそう口にすると、門番が「あぁ、よく見かけるシスターの」と呟いた。何度も門を使っているおかげで、顔を覚えられていたようだ。
「……通っていいぞ」
門番が口にして、早足で持ち場に戻っていた。
「ありがとうございます」
聞こえないと思うが、きちんと頭を下げてお礼を言うのが紳士というものだ。
「さぁ、通り抜けてしまいましょう」
安心した声色をしたオリビア。表情は何でもないようにしているが、内心は違うのかもしれない。私のせいで、余計な気苦労をかけてしまったな。
二人して、何でもないようにしながら、門を通り抜けた。
「ふぅー」
門から離れてから、オリビアが大きく息を吐きだした。
「余計な気苦労をかけて、申し訳ありません」
私が頭を下げると、オリビアが「気にしないでください!」と即座に否定する。もう定番のやりとりといった感じになってきた気がする。そのおかげで、その言葉の一往復だけで、話題が先ほどの門でのことに戻っていく。
「ちょっと疑われていましたねぇ」
なんだろう。オリビアの顔が少し楽しそうな表情に見えなくもない。意外とこのような事を楽しめるタイプだったのだろうか。
「そうですね、本当に」
そう口にしたあと、少し笑いが漏れてしまう。私も少し楽しかった。不謹慎かもしれないが。
私のそれを見て、オリビアも少しだけ笑った。そうして二人してイタズラを成功させた時のように、密やかに笑い合う。




