裸の猫
「あれが、街……ですか」
異世界の街。転生してまだそれほど経っていないのに、もうここまでたどり着けたのはとても順調といっていいだろう。
「はい……それほど大きな街ではないですが」
それでもスゴイと言ってしまう。城壁に囲まれているのは、モンスターの襲撃から街を守るためなのだろう。イメージ通りではあったが、実際眼にしてみるとやはりスゴイ。そして、語彙力のなさが悲しい。
「それで、街にはどのように入るのですか?」
検問の様な物があるのだろう。そこで何か必要な物があったりするのだろうか。
「特にありませんよ……お金を払ったり身分証を持っていないと入れない街もあるらしいですが、ここは特に」
「……なるほど」
メリットデメリットがあるだろうが、おそらく人の出入りを増やして、経済的なメリットを狙っているのだろう。
「ところでミケさんは」
私が少し考えをめぐらせていると、オリビアが遠慮がちに問いかけてくる。
「何かお召し物……マントでもいいのですが、もっていますか?」
「ありませんね」
私は今、獣人としての立ち振る舞いをする事になっている。つまり、裸という訳だ。いくら毛皮に覆われていても、人というカテゴリーとしては頂けない格好だろう。モンスターならまだしも。
「紳士として、認める訳に行きませんでしたが、如何せんどうすることもできず、見て見ぬふりをしていました……申し訳ありません」
「いっ、いえ! 謝る事では」
私が頭を下げたことに、アリビアはすぐさま反応して、否定する。私としてもこのような醜態は晒し続けられない。
「実はマントを持っているので、それを着てもらおうと思って」
そう口にすると、オリビアがマジックバックをゴソゴソと探り始める。
「獣人という事にするとなると、裸ではやはり、ですよね」
マジックバックからブラウンの、少しほつれの目立つマントを広げながらそんな事を口にした。
「これを使ってください、ボロいですけど」
少し押し付ける様にマントを手渡してくる。遠慮すると思ったのかもしれない。だが、さすがに今はそうも言ってられない。服を手に入れるまでだ。私は素直にマントを受け取る。
「ありがとうございます」
頭を下げると、オリビアが微笑んだ。




