猫じゃらしで遊ばれるなど、ありえません!
「いえ、そんなつもりは」
少し忘れていたが、しかし。
「ベルト夫妻の元へ戻らないと決めたのですか?」
その問いかけで、キリュナは少し悩む素振りを見せる。決めたわけではなさそうだが。
「まだ決めたわけじゃない……大事なものが増えるっていうのは、大変だな」
キリュナは少し顔を背けて、そんな風に呟いた。大事な物。私達を仲間と認識してくれているのであれば嬉しい。
「ミケ、浮気は許しませんからね」
突然の背後からのオリーの怒気が含まれた声に、体が強張る。いきなりどうして。よく分からないが、振り向くことを拒否する本能を押しのけて、オリーの方に身体を向けた。
「浮気? 私はそんな事いたしませんよ」
「そうですか? よかった」
オリーは満面の笑みを浮かべる。浮かべているはずなのに、何処かまだ怒っているように感じるのは、私の心が弱いからか。
「なぁ、僕にもプレゼントしてくれよ」
キリュナの声とともに、不意に腕へと暖かくて柔らかい何かが触れる。そちらを見ると、キリュナが私の腕に自らの腕を絡ませていた。
「プレゼント?」
再びのオリーの怒気が含まれた声。私は悪くないのでは。そう思いつつ、訂正するように声を上げる。
「クランの制服を支給しましょう……マーク様」
別に逃げるつもりではないのだが、キリュナの拘束から抜け出て、マークの前まで移動する。
「キリュナ、どういう……」
「僕にもまだ芽はある……」
なんだかオリーとキリュナの刺々しい会話が聞こえてくるが、シビリティパーソンとして、乙女の秘め事に聞き耳を立てるなど、あってはならない。ダカラキカナイ。
「キリュナ様、というお名前でよろしかったでしょうか、あの方の仕立てもご依頼していただけるという事でしょうか?」
「はい、お願いします」
ちょっと振り返るのが怖いが、勇気を出して振り返り、キリュナに声をかける。
「なにか希望はありますか? キリュナ様」
オリーとキリュナは、もう仲よさげに並んで立っていたのを見て少し安心する。何を話していたか分からないが、仲がいいのは良いことだ。
「希望かぁ……すぐには……でもその帽子と羽飾りは、必須って感じだよな」
キリュナの言葉で、ふとオリーの頭に目が行く。そういえば、オリーとおそろいの羽飾り。ジェームズの粋なはからいなのだろう。これは。
「ん? どうした?」
「ミケ?」
オリーとキリュナに問いかけられて、思考をまとめる。これが良いのでは。
「思いつきました、カフェの名前と、クラン名を」
私は背筋を伸ばし、腰に両手を当てる。
「カフェの名前を、カフェ羽飾りと致しましょう、そして!」
私は帽子のツバに右手をかけて、目を隠すように少し下げる。
「我らのクラン名は」
大事な所。少し言葉をためて、可能な限り良い声を出すように努める。
「フェザーオーナメント」
そして、口の端をあげるように、ちょっとニヒルに笑う。決まった。カッコイイ。
あれ? 左手に持っていた傘の感触が……。
「うにゃうにゃうにゃ!」
ににゅあ、にゃあ、にゃああああん
「はっ、失礼、取り乱しました」
また、良い所を邪魔された。猫の習性に。私は自分を惑わせた物に視線を向ける。転がっている猫じゃらし。柄の部分に見覚えがある。またか。
「ふふふ、やっぱりミケはそうじゃなきゃです」
「そのギャップも、まぁ……僕は」
それぞれがそれぞれの思惑の表情を浮かべて、私に視線を向けていた。少なくともカッコイイシビリティパーソンに向けるものではない。
めげないぞ。私は猫の習性に打ち勝って、立派なシビリティパーソンになる。
猫じゃらしで遊ばれるなど、ありえません!




