スタートライン
「感服いたしました」
本当に心からの言葉とともに、頭が下がる。マークから「私も同じ気持ちです」と笑い混じりの声が聞こえた。頭を上げると、マークは苦笑している。弟子という立場から見ると、絶望的な壁を前にした気分なんだろうか。その苦笑はそんな事を物語っている気がする。
「ではこれを」
話の区切りを見計らったように、マークがマジックバックからスーツカバーがかかったスーツを取り出す。もちろん中身は見えない。そのおかげか、期待に胸が高鳴る。だいぶ遠回りしてしまった気がするが、やっとスタートラインに立てる気がする。
「どうぞ、お召しになってください」
ウズウズしているのが、バレてしまったか。ここはもう隠す必要はないように思う。溢れる気持ちを抑えることなく「はい!」と声を上げた。
オリーと私、それぞれ届いたスーツに身を包む。居住エリアで着替えを済ませ、カフェエリアに戻ってくる。
私はオリーと向かい合わせに立つ。
オリーのスーツは、ダークグレーを基調にしており、燕尾タイプの乗馬服風という感じだ。頭には羽飾りがついた小さめのシルクハット。かっこよさと可愛さが上手く調和している気がする。
私のスーツは黒のスリーピース。単純で捻りがないと言えばそうなのだが、これが一番であると思っている。そして羽飾りのついた中折ハット。傘を杖のように持つ。
「ッッッ!」
小さくガッツポーツを決めて腰をかがめて、オリーが声にならない声を上げる。多分小躍りしてしまいそうなのを、抑えるためなのだろう。そういう私も、顔のニヤニヤが止まらない。これは格好良い。
「喜んでいただけたようで、何よりでございます」
マークが微笑んでそう口にする。嬉しくて仕方がない。私も小躍りしてしまいそうなのだ。
「ミケ」
「オリー」
お互いにもう一度見つめ合う。お互いがその表情を見るだけで、褒め合う言葉など必要なかった。
「ありがとうございます」
私は改めてマークに感謝を伝える。その先にいるジェームズにも届くように。
「ジェームズには、お二人の様子を漏らさずお伝えします」
それはそれで恥ずかしいが、それでジェームズが喜ぶのなら。
「クランってやつを作るんだってな! さっきロラン様とすれ違って聞いたぞ!」
カフェのドアが開けられ、そんな声が店内に響く。キリュナがそこに立っていた。
「あっ、キリュナ、いらっしゃいませ」
上機嫌のオリーがキリュナを迎え入れる。対照的にキリュナの表情は、不機嫌に変わっていった。
「ズルいぞ、僕だけ除け者にして! 二人だけでクランってやつをやる気か!」




