新たな生
暗闇の中、徐々に意識が浮き上がってくる感覚。
「にゃ?! なんだ? 今倒れたはずなのに」
動かないくらい重かったはずの体が、今は軽い。起き上がれる。
「というか、ここはどこだ? 森の中?!」
周りを見渡す。自分の部屋にいたはずなのに、今は森の中にいる。起き上がろうと地面に手をつくと、感覚がおかしい。手の方に視線を移す。
「手が! 毛むくじゃら!」
視界に映った両手は、毛に覆われている。とっさに手を返して手のひらを見る。
「に、肉球?!」
そこには可愛らしい肉球。
「どういう?!」
よく見てみると、視界の端に毛が見える。少し突き出した口と鼻も。
「落ち着いて……観察」
俺は一度深呼吸をする。それから見える範囲で自分の体を見回す。全身は体毛に覆われて、尻尾がある。手には肉球。しかも意識すると爪が出せる。
心が落ち着いてきた所で、自分についての理解が湧き出てくる。
「俺は……ケットシー……前世の記憶が蘇った?」
いや、感覚としては思い出したというより、人間としての自分が突然ケットシーの体になってしまったという方が正しい。
「それは、どっちでもいい」
今はまず落ち着いて、自分の置かれている状況を分析したほうがいい。
何があったのか思い出す。
俺は帰宅したところだった。疲れ果てて家に帰ってきた所だ。倒れ込もうと思ったわけではないのに、ぐらりと体が傾いた。倒れてしまった。ここはベッドではないのに。そんなどうでもいい事を考えたのを覚えている。
「はれ、はらだにちはら……」
上手く喋れない。これって……。あぁ視界がどんどん暗くなっていく。もしかして死ぬのか。これで終わり……?
思い出した。こんな感じだった。
つまり死んで、転生してケットシーになり、今になって記憶を思い出したという感じか。