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ランプの魔人と真実の愛  作者: 礼三


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第二夜 「男と精霊の痴話喧嘩」2

「いい夜ね…」

 街の外れをハリールが散歩していたときだった。

 月の光を凝縮したかのような輝きを放つ女性にハリールは見惚れた。

 女とハリールの視線が交差する。

 女は黄金の瞳をしていた。蜂蜜が溶けたような甘い色がハリールを誘う。互いに目を逸らさず見つめ合った。

「あぁ…。美しい月だな…」

 街は石造りの城壁で囲まれており、その向こうへ砂漠の山が連なる。真っ暗な空へは神々しい満月が白く浮かびあがっていた。

「えぇ…。とても綺麗な月光だわ…」

 女は妖艶に唇の口角をあげた。唇に塗ってある紅が艶めくのを認めて、ハリールは心臓を掴まれたかの如く鼓動が波打っているのに気づいた。

 いつの間にか寄り添ってきた女は、背伸びをしてハリールの肩へそっと手をかけた。

 ハリールは促されるように屈んだ。ハリールの頬へ絹の糸のような金髪が触れる。

 無言のまま、二人は唇と唇を重ねた。

「いいのか?会ったばかりの男と?」

 女はハリールの首へ両腕をかけてきた。

「だって…。貴方…。とても魅力的なんだもの…」

 夜はまだ長い…。ハリールは火照る身体を冷ますことなく、女に身を委ねられ情熱的な一夜を過ごした。



 散歩に行ってくると外出したまま、一晩中戻らなかったハリールがルゥルゥの前で、頭を床へ擦りつけて告げた。

「ルゥルゥ…。後生だ…。オレをランプに戻してくれ…」

 ルゥルゥは帰ってこないハリールの心配をしながら、数人の使用人たちと一緒に昼食の準備に取り掛かっていた。

 そこへ神妙な表情をしたハリールが突然現れ、ルゥルゥは腕を掴まれた。台所から中庭を通り、ルゥルゥの部屋へと向かう。

 アラーウッディーンは庭掃除をしていたのだが、何やらぬ二人の様子を目撃して、二人が消えた部屋の外で聞き耳を立てていた。

「急に何を言い出すの?私たちは家族でしょう?ずっとこれからも一緒に暮らしていくのでしょう?」

 ハリールの突然の願いにルゥルゥは驚いて尋ねた。

 ルゥルゥは三回目の願いをハリールへ告げれば、ハリールに二度と会うことはないを理解していた。

「好きな…。好きな女ができた。彼女の涙を見ると心が苦しくて…。きっと、彼女がオレの運命の女なんだ…」

 ハリールは願いを叶えるランプの精である。主人は絶対であり…。本来、主人へこのような望みを申し出ることなど見当違いなことだと甚だ承知している。

 だが、今までの主人とは違い、ハリールを願いを叶える魔人ではなく、一人の家族として認めてくれたルゥルゥならば許されるのではないかと懇願した。

「はっ?何が運命の女だって?」

 耳を澄ませていたアラーウッディーンは勢いよく扉を開き、ハリールへ殴りかかる。

 アラーウッディーンの気配を予め感じていたハリールは、彼の怒りを受けとめなすがままに身を任せた。

 ハリールは抵抗しないものの魔人である。頬や腹を何度打たれても、腫れあがるのはアラーウッディーンの拳だった。

「やめなさいっ!アラーウッディーンっ!」

 いつになく厳しい口調でルゥルゥはアラーウッディーンを諌めた。

「何でっ!何で…。止めるんだ…」

 ルゥルゥは動きの止まったアラーウッディーンの手を優しく撫でる。

「ここに連れてきたとき、約束したわよね?もう二度と誰も殴らないように…って」

 ハリールは美しいままの顔を保っていたが、アラーウッディーンの手には血が滲んで青褪めていた。

「それに…。これは私とハリール…。二人の問題なのよ…。あなたにとやかく言われる筋合いはないわ…」

 アラーウッディーンのルゥルゥの肩を凝視した。ルゥルゥはそれに気づくと、両肩を自身で抱きしめて震えを抑えようとする。目には涙が滲んでいた。

「…」

 アラーウッディーンは居た堪れなくなり部屋を飛び出していく。アラーウッディーンの背中を見送ったハリールはルゥルゥへ尚も真剣な眼差しで縋った。

「私がランプへ戻ったら、今日訪れる女にランプを渡してほしい…」

 一夜にして女の虜になったハリール…。

 ハリールの熱い視線の先へルゥルゥは映っていなかった。

「いいわ…。私の三つ目の願いを教えてあげる…」


 私を愛してほしい…。ずっと一緒にいましょう…。


 ルゥルゥは心で唱えながら、別の言葉をハリールへ言い放った。

「あなたを自由にしてあげる…。何処へでも行けばいいわ…」

「承知しました…。ご主人様」

 ハリールはそう述べたが、ランプに戻ることはなかった。何の変化もなかったのだ。

 ルゥルゥの願い…。ハリールが自由になることが叶ったのだった。

「あぁ…。オレは自由だ!きっと、彼女と真実の愛を見つけたからだ!ありがとう!ルゥルゥ!」

 ハリールは喜び勇んで部屋を出て行った。

 歓喜で頬を紅潮させて目を輝かせながら、ルゥルゥへは見向きもせずに…。

「私では…。本当の愛を得られなかったのね…」

 一人残されたルゥルゥは小さく呟いたのだった。

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