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ランプの魔人と真実の愛  作者: 礼三


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第四夜 「魔塔の賢者と美しい精霊」5

 ジャアファルの斜めがけの鞄の中にはランプが入っていた。

 ランプにはジーニーが封印されている。

 アラーウッディーンを探しに向かっただけなのだが、結果、ジーニーを封じることになった。


 これは賢者のもとへ帰そうかな…。


 魔法のランプは遥か古に賢者がジーニーへ贈ったもので、擦ると魔人が出現するのではなく、願えば宝石や金が出てくるものだったらしい…。

 ジーニーは今まで好き放題生きてきた。

 夫である賢者の最後のひとときぐらい寄り添ってもらいたいとジャアファルは望んだ。

 永遠の時を生きる精霊にとって、ほんの瞬きのような刹那なのだから…。


 ジャアファルは賢者が認めた次期魔塔の当主である。

 何故、賢者は後継者にジャアファルを選んだのか…。ジャアファルが賢者に匹敵するほどの魔法の才能、膨大な魔塔の知識を譲れるだけの頭脳の持ち主…。

 なのはもちろんのこと…。

 賢者は自身の死が近いことを予見していたからだ。

 人間でありながら、生まれ持った魔力で数千年の時を超え魔塔主として君臨し、この世界を見守ってきた。そろそろ、寿命が尽きてもおかしくはない。


 そもそも、永く生きすぎたのだ…。


 だが、賢者は死を目前に、一つだけ気掛かりなことがあった。

 それは、賢者の妻であるジーニーの処遇…。

 ジーニーは精霊…。人の枠には当てはまらない。彼女の自由奔放なところを愛しており、それを黙認していたのだが…。


 まさか、違う次元の世界から人を呼びだそうとは…。悪戯では済まされん…。


 賢者は「自然の摂理」に重きを置いていた。ジーニーは賢者の考える「自然の摂理」に背いてしまったのだ。

 大昔、ジーニー恋人だった男へ意趣返しを目的に異世界から人を呼び寄せたようだった。

 賢者は自由を謳歌しているジーニーを封印したくはなかったが…。自分がいなくなったあとのことを考えれば対処せざる得ない。

 すでに命の灯火が消えかかっていた賢者はこの件を弟子であるジャアファルへ一任したのだった。

 ジャアファルは妻のサハルが魔塔から出しても、再び戻って来れるのならば承諾する答えた。

 ジャアファルは魔法の絨毯を開発している。魔塔は出入口がないからこそ、一般の人間が行き来が不可能なのだ。

 遥か上空にある窓や空中庭園からならば、子供しか通れない結界もなく、侵入することも容易い。

 そのことを賢者がジャアファルに伝えると、やっと恩人にサハルを伴い会いに行くことができるとジャアファルはたいそう喜んだ。



「ところで魔塔に孤児のための学校が出来たんだって?」

 マリカはジャアファルに尋ねた。

 一度、ルゥルゥはハリールを伴って魔塔へ赴いたことがある。新たに来た孤児たちで溢れていないか心配だったからだ。

 ハリールは魔塔の場所を魔力検知で分かるらしい。魔人は魔法使いと同様、魔塔の結界に弾かれない。

 様子を見に行ったルゥルゥからマリカが聞いた話だと魔塔の周囲に立派な建物が建てられており、孤児のための学校が出来ていたと言うのだ。

 予想だにしていなかった光景だったようで、栄養を考慮した食事、宿泊施設には衛生的に風呂まで設置されていたと聞き及ぶ。

「あっそれ…。ジャアファルだよ」

 無邪気な笑顔でサハルが答えた。マリカは驚きの表情を見せる。

「次期、魔塔主の権限だよ…」

 ジャアファルは何でもないように告げた。

 ジャアファルはルゥルゥと同郷である。その国の大臣の息子だった。ルゥルゥと同じように革命家たちへ追われていつしか魔塔へ迷いこんだ。

 自身は魔法の素質があったからこそ人並みの生活を送れたが、他の孤児たちは魔塔が大人と認定すれば魔塔周辺から放りだされ路頭に迷ってしまう。魔塔は常に移動しているため、大人になればその場へ取り残されるのだ。

 それまでに知識を吸収すれば、生きる術を身につけ、働き先も見つかるかもしれないと、ジャアファルは考えた。

 魔塔は魔力が全てである。

 そして、ジャアファルは賢者も認めるほどの実力があった。

 昔から魔塔にいた誰よりも…。

 賢者に相談すると、ジャアファルが管理するなら全てを任せると了承を得たのだった。魔塔の外へ容易く行き来できる成人していた魔法使いへ依頼して、運営を始めたのである。

「ジャアファルって凄いんだな…」

 マリカは感嘆の声をあげた。マリカの腕の中では赤子がスヤスヤと眠っている。サハルは笑顔で見つめ、丸くなった小さな指を起こさないようにそっと触れる。

「いやいや、凄いのはアラーウッディーンだよ…」

「えっ?…。まぁ、そうか…」

 ジャアファルは不服そうに呟き、マリカはその言葉に頷いた。サハルはマリカの腕から視線を遠くに移す。

 そこには幸せそうな二人が並んでいた。

「本当にびっくりだよね…」

「「「アラーウッディーンがルゥルゥ(お姉ちゃん)の旦那になるだなんて…」」」

 三人の声が重なる。

 白い花弁が蒼天を舞い、柔らかなウードの音色と共に軽やかに風に運ばれる。

 金糸で美しい百合の大輪が刺繍でされた燈黄色とうこうしょくの鮮やかなサテンのサリーに身を包み、ルゥルゥは慎ましく微笑む。ほんの少し伏せた眼差し、まつ毛の陰が落ちた白肌が艶めいていた。

「綺麗だね…。ルゥルゥ…」

 横には氷漬けから溶けたばかりの人のように関節をギクシャクさせながら寄り添うアラーウッディーン。それでも幸せそうに新婦を見つめる視線は真摯で情熱的だ。

 淡い黄色のシャルワーニーを黄金ボタンで華やかに飾っており、アラーウッディーンによく似合っていた。

「アラーウッディーンって周りに美形が多いから、本人萎縮しちゃってるけど…。普通にしてればそれなりなのにな…」

 マリカが珍しくアラーウッディーンの容姿を認める。ジャアファルが茶化して尋ねた。

「えっ?美形って僕のこと?」

「否定はしないけどさ…。ジャアファルよりも美形が泣きそうな顔で二人を見つめてる…」

 近くの木陰に大柄な男が一人…。紅く麗しい流し目は涙が滲んでいるようだ。

 神妙な顔つきだが、籠を持って中身の花を降らせているので、二人を祝福しているには違いない。

 ランプの呪いから解放された後、魔法を使えなくなったので、今は花を掴み腕を天へと振りあげている。ハリールは魔人から人間へ戻った。

「あぁ…。あれね…」

 ジャアファルはあからさまに顔を背けて視界から消そうとする。サハルがジャアファルの腕に絡み言った。

「もしかしたら、お姉ちゃんの旦那さんはハリールさんだったかもな件ね…」

「仕方ないんじゃない…」

 ジャアファルの背中には汗が浮かぶ。マリカは言葉を投げ捨てる。

「自業自得だろ…」

「もう少し、早く気づけばね…」


 年頃になったルゥルゥが優しくて頼りがいのあるハリールへ恋心を抱いていたのは事実だ。

 ハリールはルゥルゥを好ましく感じていたが、幼い頃から世話をしていた主人に対して愛が芽吹くとは思いも寄らなかったようだ。

 昨晩のことだ。

 ハリールは欠けた月を眺めていた。

 偶然、ジャアファルは近くで夜風に涼んでいたのだが、ハリールがポツリと零した。

「ルゥルゥが幸せそうで…。私も嬉しいのだが、胸が苦しいんだ…。心が…。痛い…。何故だ…」

 眉を顰めて哀愁を漂わせるハリール…。心臓を握りつぶしそうな勢いで胸の筋肉を掴んでいる。ジャアファルは気の毒になり言い繕った。

「お父さんって娘が嫁ぐときに、幸せそうな姿を見ると今まで大切に育ててきた思い出が渦巻いて切なくなるんだって…」

 数えきれないほどの女性たちと浮き名を流してきた男をこの言い訳で誤魔化せるわけがないとジャアファルは諦めていたのだが…。

「なるほど…。これが父の愛なのだな…。胸が切り裂かれそうに辛い…。だが、ルゥルゥの幸せは私にとっても幸せだ…」

 真面目な顔でハリールが頷くものだから、このまま誤解してもらおうとジャアファルは考えた。


 きっと…。その方が平和だ…。


「娘を嫁にだす父親はその男へ張り手を食らわせても良いらしいよ」

 ジャアファルはハリールを唆してみようと策を立てたが、人間に戻ったとはいえ、素晴らしい体躯のハリールに殴られれば、ルゥルゥは未亡人になる可能性がある。

 婚姻前夜にその悲劇はルゥルゥに申し訳が立たない。

 ジャアファルは想像で終わらせることにしたのだった。


「ねぇ!ジャアファル!私たちも新郎新婦を花で飾りましょうよ」

 今日はここから旅立った孤児たちも集まり、ルゥルゥとアラーウッディーンの結婚式へ参加している。

 大勢が祝いの言葉を伝え、花弁を撒き散らし、二人の門出に幸あれと願っている。

「そうだね…。行こうっ!」

 サハルの手を繋ぎ、皆の輪の中心でお互い顔を見つめて微笑みあうルゥルゥとアラーウッディーンへジャアファルは駆けていくのだった。

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