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ランプの魔人と真実の愛  作者: 礼三


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第四夜 「魔塔の賢者と美しい精霊」4

 清らかな新緑の風を思い起こすこの瞳をアラーウッディーンは覚えていた。

 何度、いじめても濁ることのない無垢な眼差し…。あの頃の面影が残っているのは幼顔だからだろうか。

 ルゥルゥに庇われ、可愛がられていたことに何度も腹を立て、理不尽に怒りを向けていた少年…。賢者の弟子になったジャアファル…。

 顔立ちはあまり変わっていないが、幼い頃に比べて凛々しさを感じさせる。身長もアラーウッディーンと同じくらいになっていた。

「小さな頃…。あんなにいじめたのに、助けてくれて、ありがとな…」

 魔法の絨毯を巧みに操り、ジャアファルは間一髪のところでアラーウッディーンとハリールを救った。

「あの頃はごめん…」


 パンっ!


 突然、ジャアファルが大きく手のひらを振り翳して、アラーウッディーンの頬を引っ叩く。

 一瞬、アラーウッディーンの目から星が飛んだ。アラーウッディーンは何が起きたのか分からなかった。

「あのさ…。マリカが言ってたんだよね…。アラーウッディーンへ一発見舞ってもいいよって…」

 アラーウッディーンは頬を摩った。熱を帯びて腫れている。


 マリカ?

 マリカ…。お前…。

 相当、オレのこと嫌っていたんだな…。


 だが、アラーウッディーンはそれだけのことをジャアファルへおこなってきたことを自覚していた。

「それでも、グーじゃなくて、パーにしたんだから…。感謝してよね?」

 ジャアファルはあどけなく笑う。


 成人したジャアファルはルゥルゥの邸宅へ妻を伴い訪ねた。

 魔塔で暮らし始めてから、一向に会いに来てくれないルゥルゥへ痺れをきらして、会いに行きたいと妻が駄々をこねたからだ。

 ジャアファルの妻はサハルと言う。ルゥルゥがジャアファルの雑用係へ推薦した少女だ。

 そこで気落ちしていたルゥルゥと再会して、マリカから詳しい話を聞き、ジャアファルがアラーウッディーンを探しにきたという。


「昔のことだけど、僕にとって帳消しには出来ないと思ったからこれで済ませたんだよ…。僕が本気で魔法を使ったら、アラーウッディーンは跡形もなくなるからね。ケジメだと思って受け止めてよ」

 ジャアファルが恐ろしいことを口にした。胸を撫で下ろすアラーウッディーン…。

 マリカがジャアファルの脅威を認識していたかは謎であるが、殺したいほどアラーウッディーンは憎まれているわけではないようだ。


 ありがとう…。マリカ…。


 何故か、手を組み感謝するアラーウッディーン。

 もちろん、ジャアファルはアラーウッディーンへ魔法を仕掛けるつもりは毛頭ない。

 そもそも、それならばアラーウッディーンを洞窟まで助けに来なかっただろう。

「アラーウッディーンが死んだら、ルゥルゥが悲しむだろう?嫌なんだよ…。そういうの…。ルゥルゥはサハルと僕を縁を結んでくれた恩人でもあるしね…」

 ジャアファルが賢者の弟子となって間もなく、雑用係として連れてこられたのはサハルだった。

 ジャアファルは落胆したが、ルゥルゥの性格から考えれば、彼女がサハルへ雑用係を譲ったことを納得するしかなかった。

 サハルは何も悪くない…。

 だが、どんなに優しく接しようと心掛けても、ジャアファルはサハルを冷たくあしらってしまう。

 サハルも何かを感じとっていた。

 サハルは雑用係として実直に仕事をこなし、ジャアファルの役に立ちたい一心で勉強にも励んだ。

 ジャアファルは魔法の絨毯を発案して構想を練っていたのだが、それには正確に魔法陣を糸で絨毯に編み込まなければならなかった。

 ジャアファルは手先が器用ではない。

 魔塔の外へ出られないサハルは、独自に織物の研究に没頭し、ついに魔法の絨毯を織りあげたそうだ。

 いつしか、ジャアファルはサハルの健気な姿に心打たれ解されてしまっていた。

 ジャアファルは掻い摘んで、アラーウッディーンへサハルとの結婚までの経緯を話した。

 幸せそうに語るジャアファルだったが、アラーウッディーンから罪悪感は拭えなかった。

「知ってたよ…。ルゥルゥの気を引きたくて僕をいじめていたこと…。間違った方法だったけどね。けど、その分、彼女を幸せにしてよね?」

 アラーウッディーンの肩へ手を置いて、ジャアファルは言った。

「オレが?それはハリールの役割で…」

 疑問符がアラーウッディーンの頭へ浮かぶ。

「バカだな…。乙女心は変わるもんなんだよ…。僕の心も変わったようにって…。僕は乙女じゃないから、説得力がないか…」

 アラーウッディーンは腕を組み、ジャアファルの言葉の意味を考えている。深く思い悩んでいるアラーウッディーンの表情がジャアファルには面白かった。

 そして、視界の端へ魔法の絨毯のもう一人の乗客、ハリールの姿が映った。

 ハリールは身体の彼方此方を触り、両手を裏表へ何度もひっくり返しては眺めている。

「何故…。私はランプから出られたんだ?」

 豊かな美しい肢体を幾度と確認しているその姿は自己陶酔していかのようで滑稽だ。

 吹き出してしまう前に、ジャアファルはハリールへ伝えた。

「それは…。あなたが真実の愛を知ったからじゃないの?」

「私が…。ヌーラに騙されていたのに?」


 あれは真実の愛ではなかった…。


 美しい女性へ惚れやすい性格を利用されただけなのだとハリールは理解している。

 ハリールが幾分か鈍いことに気づいて、ジャアファルは髪を掻きむしった。

「だから…。自分の命よりも、ルゥルゥさんのためにアラーウッディーンを助けようとしたじゃない?」

「何故…。それが真実の愛なんだ?」

 真実の愛を見つけるため、一千年近くランプへ閉じこめらていた魔人だ。愛という感情に疎いのかもしれないとジャアファルは思った。

 愛するもののために身を犠牲にしても厭わないといった感情がハリールへ芽生えたのだ。

「んっ?説明するの面倒だから、とりあえず帰ろっか?」

 とりあえず、アラーウッディーンもハリールも愛においてポンコツなのだとジャアファルは結論に至ったのだった。

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