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おとぎばなし

おとぎばなし ― はじまり ―

作者: ぽすしち
掲載日:2024/07/06

連載のほうで続けている『おとぎばなし』シリーズの、さいしょのはなしを、こちらへうつしました。 このあとのはなしが、血生臭くBL風味でなんとなく続いております。。。。。


   キーイ、と鳴いたのは、山に住む鳥か。



 見上げたまま動かなくなった男へ、もう一人が「おい」とせかす。


「はいはい、わかってるって」

 なら、歩け、と命じた男は既に先を行きだした。

「いや、今見えた空が、なんだか久しぶりにみた空のような気がしてさ」

「空なんか、戻ってから仰ぎやがれ」


 がざがざと、先の男は足元の小さな植物など無いかのように足を運ぶ。

 

 こいつの後って、道ができるから歩きやすい、とは言わない。言ったら先を歩かされるだろう。

 


 いきなり、前のでかい背がとまり、まさか今のが伝わったか?などと思う。


「沢だ」

 ざざざ、と斜面を下る大きな身体をおいかける。

 でかいのに動きが早いのだ。


 少し息がきれた。

 ここのところ、少し怠けていたからか、身体が重く感じる。


「どうした?歳かよ?」

「うるせえ」

 沢の水に手を浸して笑う奴は、おのれよりも五つほど歳若い。

 水をすくうと鼻の下へと近づけた。


「イヌみたいだな」

「うるせえよ。おれはあいつらの匂いしか、わからねえ」

 からかいに真面目に返すところがこの男らしい。

 

 ふん、と鼻を鳴らして水を捨てた。


「―― おいテツ。この仕事、どこから請けた?」

「聞きたいのか?」

 聞かなくともわかるだろうと見かえしたら、ものすごく嫌そうな顔をされた。


みかどかよ?」

「そ。金もでる。スザクには黙っておくよう言われてねえ」


 けっ、と口を曲げ、水をすくったほうの手をふる。

「この上だな」沢の上手を見上げた。



「アレからの仕事じゃあ、退治じゃねえんだな?」

「まあね。天帝からは、『 見つけてこい 』、って言われてるだけだし」

「なんだ?そりゃ・・」


 そう思ったのはおれも同じだよ、と沢をのぼり始めた。




 この男と組んで仕事をするようになって、はや四年。


「おい、スザク。おまえ今、二十二か?」

「おめえが二十七ならな」


 初めて会ったときから、こいつのこの口のききかたは変わらない。





 ※※


 もともと、神官、という職についていたのだ。

 

 もってうまれた『力』で、この世の中の、役神えきがみを遣いこなす仕事をしていた。それがある日、自分が務めるところに、天宮からの遣いがやってきた。


「セイテツっちゅうのはおるか?」

 天宮にたくさん住まうの役神の一人だった。

 見かけはどこにでもいる山鳩だ。


「・・・おれだ」


「呼んでるで。ミカドが」


「・・なんで、おれなんだ?」


「しるかい」


 書類を作成中の机に乗った鳩が、ばさばさと飛び立った。

 墨が散って作り直しのそれを丸めて捨てながら、ちょっと行ってくると、同情の視線の中立ち上がった。

 


 天帝という地位にある、この世の中で一番強く賢いとされるそいつは、残念ながら、非常に捻じ曲がった性格をしていた。


「よお。待ってたぜ」

玉座の上の、白い猫があくびをする。


「用件を早く言え」


「おまえら、わしのこと、もうちょい敬っていいぞ」


 言い返したい言葉を飲み込み、同じ言葉をくり返した。

「用件を」

「剣山のふもとあたりになあ、昔、ガキがいた。そいつを探して連れて来い」


「・・・断る。おれは忙しい]

「神官が?それならば、《 今からおまえは神官じゃない 》」


「ま、待て!」

 この、性格が悪いみかどに、口にだして言われたら、それは通るのだ。

「取り消せ!」


「断る。わしも忙しいんだ。早く探せ。ガキは今、下界の東の街にいるはずだ。女といる。探し出したら、高山たかやまにつっこんで、徳をとらせろ」

「高山?・・・坊主にするっていうのか?」

 そんな子どもを?


 猫が、わらった。


「いそげよ?間に合わないとなあ、人がたくさん死ぬぞ」

「!」


 嫌もなにもなかった。


 下界に下りて、化け猫の言った手がかりだけで、どうにか探しあてるしかなかった。


 まあ、結局わりと早めに見つけられたのは、その化け猫も珍しく焦っていたからであって、見つけた《スザク》という名の子どもは、もう十五歳で、とても『ガキ』には見えないこどもで、高山に突っ込めば、たった一年ほどで、徳をとり、坊主となって戻ってきた。



 その後にあったことは、今はまあ、置いておくとして・・・。




 ※※




「・・・そうか・・・どうりでおれが、息切れするわけだ」

「だらしがねえなあ。女のところに入りびたりすぎだろ?ああ、あとタバコだ」


「生きがいだから、放っておいてくれ。それより、あれか?」

「・・だな」


 沢をのぼり、その水の元へとでてみれば、山に入ってすぐに会った猟師の教えてくれた沼があった。

 話に聞いた通り、かなり、大きい。

 


 その、沼の真ん中に、浮島のように黒く光るものがいた。

 沼には陽の光が当たり、浮島にも当たっているのだが、照らされているそれは、黒く硬い鱗だ。


「おい!そこの黒いの!」

いきなり、スザクが沼へ叫んだ。


「・・死んでるのかな?」

「これで刺してみるか」坊主が背中に負った刃を抜こうとしたとき、沼がぶくぶくと泡立った。


 水が柱となり、さばあああと音がして、周りの木々から鳥たちが飛び立つ。



「・・生きてたな」

 口をあけ、それをみあげた。



「―― 騒がしいわ。人間ども」



 沼から上がったのは、そいつのでかい顔だった。

 子どものころ捕まえて遊んだ、トカゲのような顔をしている。


 スザクのほうへそれを近づけると、「ほお、おまえ坊主か」と喉を低く鳴らした。


「まあな。おまえ、なんだ?」


「・・・坊主のくせに、しらなんだか?」


「おれ、元神官だけど、しらないなあ」


 トカゲのような顔と長い首、背中は沼に沈んでいたが、ハネが生えていた。

 先ほど飛び立っていった鳥たちのように、柔らかそうな黒い羽毛に覆われたそれが、力なく水に浸かっている。


「わしは雲と風のしもべだ。《アラシ》という」


「へえ~。初めて見た」

 セイテツは観察するように相手をみた。


「わしも人間にこんな近くで会ったのは初めてだ」

 鼻息をついてアラシが首を低くした。


「で?見つけたけど、どうしろっていうんだよ?」

「スザク・・シモベが好きでこんなとこにいるわけないだろ?怪我してるんだよ」


 この会話にアラシが眼をほそめ息をついた。

「・・おまえら、わしをみつけるのを、誰かに頼まれたか?」


「正確の悪い白い猫にね」


「ミカドか?ふん、まあしかたあるまい。『借り』と認めようぞ」


 あーあ、言っちゃった。

 シモベに『貸し』をつくりたくて、今回はかりだされたな、とセイテツは口にせずスザクと顔を見合わせた。


「さすれば、人間、牛を一頭と、塩をひと盛りもって来い。それから、坊主の経だ」それだけあれば、すぐにも治るとアラシが言うのへ、坊主が聞いた。


「治ったら、そのハネで飛べるのかよ?」

「当然だ。わしらはこの空の、さらに上に住んでおる」


 へえ、と感心したようにスザクがセイテツを見た。


「―― それなら、おれたちを乗せてミカドのところまで飛んでみてくれよ。はやく片付けてはやく帰もどってこいってのが、ミカドの《望み》だからよ」

 おまえもつくった『借り』はすぐに返したほうがいいだろう?ときかれたトカゲは、わらうように目を細めて喉をならした。




 こうして、ふたりの男をのせて『はやくもどった』おかげで、ミカドの望みをかなえたシモベは、帝への『借り』をかえしたことになり、帝がつくりたかった『貸し』はなくなった。



 もちろん、怒った帝から金はでなかった。


 


 スザクとセイテツはアラシに気に入られたらしく、ときどきその背にのって空を飛ぶことができる。



「これで、息切れしないで山がのぼれる」

「てめえはちゃんと身体ととのえやがれ」



 

 四年も、妖物を退治してきたのだから、これぐらいの褒美があってもいいと、セイテツは今日も山々をみおろし思っている。




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