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伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。  作者: 東出八附子
1.5部 飛翔

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幕間2ー5話 決別と再生と


―― メイドカフェ『びくとりあん』オーナー 白石(シライシ) ――


「どーゆーことだよ、てんちょー! あと2か月でリエたちの店と家が無くなるって! 聞いてないぞ!」


 リエちゃんが俺に詰め寄る。彼女の怒りはもっともだ。あと2か月で住まいを強制退去なんて聞かされたら誰だって怒る。


「俺も聞いたのはつい最近で、話すかどうか迷っていたんだ。こんな暗い話を聞いて、リエちゃんたちは笑顔で接客できるかい?」


 それ以上リエちゃんは反論しなかった。この沈黙は肯定だ。

 リエちゃんの声を聞いてミホさんもキッチンから出てきた。


「だから最近、いつもに輪をかけて陰気臭かったのか。でも、あたし達にその話を黙っておくのは別問題だろ。あたしとリエには死活問題だ」

「ごめん」

「そういうひとりで抱え込みがちなところは嫌いだよ、白石クン」


 嫌いと口に出しつつも声と表情は柔らかい。ミホさんに続いて灯さんもキッチンから出てきた。


「新しい家を探せばいいんじゃないの? アパートとか、友達の家を借りるとか」

「詳しく話せないんですけど、あたしらルルちゃんと似たような立場なんです。新しく借りることが難しいんですよ」

「前のてんちょーに拾ってもらってココに住んでるんだ。リエたち、頼れる友達なんていない」

「シライシの家は?」

「年頃の男の家に年頃の女性2人はダメでしょ。それに我が家は四畳半のワンルーム。物理的にも無理だよ。

 要するに、ここを追い出されると、ミホさんとリエちゃんは路頭に迷う。それだけは断じて許されない」

「でも白石クン。このまま赤字じゃあたしら追放確定っしょ? ルルちゃんが来てどうにかなればいいけど」

「どうにかするよ。そのためにはルルさんたちの本格的な協力が必要になる」

「秘策があるのだな。君の目がそう言っているぞ」


 俺は大きく頷いた。

 

「俺は前々からこの店を根本からリニューアルしたいと考えていた。今の模範的なメイドカフェじゃ奇跡の大逆転は難しいと思っているからね。残り2か月しか無い……逆を言えば、()()()()()()()()()()()。方針転換するには十分な期間だ。ひと月を準備期間に充てて、残りひと月で黒字にする」

「根本からリニューアルって……メイドカフェを止めるってコト?」

「いや。メイドは継続する。でもリエちゃんたちが着ているミニスカタイプの服で接客するコンセプトカフェみたいなスタイルじゃなくて、ルルさんが着ているクラシカルなメイド服で本格的な給仕をするスタイルの喫茶店にしたいんだ」


 全員の視線がルルさんに――正確にはルルさんのメイド服へ注がれた。


「ルルさんのような服に見合う格式の高い店にする。エンタメ路線から様式美路線へ舵を切りなおす。それでいて誰もが入りやすい、門戸の軽い店を目指す。

 資金は俺が借金してでも作り出す。どうせこのままじゃ増えもしないし、パーッとつぎ込んじまおう」

「でもてんちょー。リエはルルみたいなエレガントな動きなんて出来ないよ」

「ルルさんに指導してもらう。ルルさんは本場のメイドを雇っていた経験がある。知識と技術と心構えは誰よりも深い。だからルルさん。君にはだいぶ協力してもらう必要がある。俺は経営を勉強途中のど素人だから、いっそのこと実質的な運営すら任せてしまおうとすら考えているけど――」

「全くもって問題ないな! 任せておけ! 最高の給仕が提供できるようにしてやろう!」


 うん、君のキラッキラした瞳を見れば断るなんて言い出さないと思ったけどね。

 

「ありがとう。ルルさんがいないと始まらないプランだからね。それとリエちゃんとミホさんにも引き続き協力を頼みたい。店は赤字だった。でも君たちの評判自体はとても高い。君たちが居たからこそ今日まで『びくとりあん』が続けられたと僕は考えているよ。今までの接客からガラリと変えてしまうことになるけど、いいかな?」

「リエはいいよ。面白そうだと思う。ルルがいるなら頑張れそう!」


 一番の心配だったリエちゃんは即答だった。俺もルルさんが居なければ言い出す勇気は無いから、彼女の存在は本当にありがたい。

 一方のミホさんは言い淀んでいた。しかし彼女の顔から嫌悪感は見受けられない。

 

「オーナーの意向なら従うけど……ひとついい、白石クン?」

「どうしたの?」

「経営方針を変えるだけならメイド喫茶にしなくてもよくない? なんでメイド?」


 今度は一斉に視線が俺に注がれた。ごもっともな意見である。うーん、言わなくちゃ駄目なのか? 勢いで乗り切ってしまおうと思ったんだけど……。


「オーナーなんだろ。はっきりさせとけよ」


 進さんがニヤニヤしながら後押しをした。意地悪いな、まったく。

 

「いやその……シンプルに好きなんだ。ロングスカートのクラシカルなメイドが」


 そもそも俺とセンパイはメイド愛好家同士の関係だったのだ。センパイはミニスカメイド派だったから好みは全く噛み合わなかったけどね。

 俺の正直な意見を伝えたことが功を奏したのか、ミホさんは肩の力を抜いて微笑んだ。


「好みだったらしょーがないな。断る理由無し。あたしも頑張るよ、白石クン」

「リエたちだって、メイド大好きだもんね! じゃなきゃメイド服は着ないよ」

「メイド好きに悪い奴はいない。コレ世界の真理な」


 俺は大きく頷いた。その真理に異論なしだ。

 

「ありがとう、二人とも。これで新生『びくとりあん』としてスタートを切れる……いや、この際だから店名も変えて完全リニューアルにしよう。

 という事で、作業中のところ申し訳ないです、灯さん。片付けと補償の件はいったん白紙でお願いします」

「私としても楽になるからいいわよ。しかし、ほんの数分で見違えるように元気になったわね」

「いい感じに吹っ切れました」


 俺は進さんに視線を移すと、暑苦しいサムズアップが返ってきた。間違いなく貴方のおかげですよ。


「ルルさん。改めて伝えるよ。貴女に運営の一切を任せる。手続きとか具体的な人事とか、責任が絡む面倒なところは全部僕が引き受けるから、ルルさんはガンガン意見を言ってくれ」

「心得た。灯に許可を取ってスケジュールを調整するよ」

「よろしくお願いします。リエちゃんとミホさんも意見があれば遠慮なく言ってほしい。店が繁盛するなら何でもやるよ」

「うわ、てんちょーがカッコいいコト言ってるー。めっちゃ違和感バリバリ」

「リエちゃん茶化さないで」

「アリ寄りのアリだから、もっと言っていいヤツだよ。男見せろよ、てんちょー」


 あいたたた。肩をバシバシ叩かないで。脛を蹴られるよりは百倍マシだけど。


「ようし、調整できたぞ! 早速はじめるか! 改革だ!」

「改革って……もうプラン立ってるの!?」

「そもそも仕事中から考えていたよ。俺だったらこうするああするという妄想をね。ひと月で君たちを一流の主人とメイドに仕立て上げるぞ」


 ルルさんは元気いっぱいに言い放った。そういえば灯さんに許可を取るって言ってたけど、何の許可だったんだろう。灯さんは妙に嬉しそうな顔をしてるけど。そもそも灯さんは何者だ? ルルさんとどういう関係なんだ? 保護者っていう情報以上は入っていないな。

 ……まあいい。今は店の復興に専念だ。せっかくルルさんが協力してくれているのだから、俺も全力で応えねば。

 

「具体的なプランの内容を聞いていい?」

「客ではなくシライシを主人として見立て、リエとミホはシライシに対して奉仕をしてもらう。一流のメイドを育てるには奉仕の対象たる主人の存在が必要不可欠だからな。

 客は文字通り、奉仕ではなく来客として給仕を受けていただく。つまり御主人様と呼ばれる対象は客ではなく君になるな」


 リエちゃん。ミホさん。微妙にへちゃむくれた顔しないで。傷つく。

 

「料理や喫茶の指導は進や灯に紹介してもらう。二人の人脈ならひと月でもどうにかなりそうだ」

「ルルは何を担当すんの?」

「まずはメイド服の用意だな。それからメイドとしての教育はもちろん、シライシを一人前の主人として振る舞えるように教育させてもらう。メイド長()()としてな」

「代行? もうメイド長やれし。ルルなら問題ないだろ」

「元々俺は短期希望でここに雇ってもらった。長く関われない。だからその役目は引き受けられないんだ」

「ミホ姉がメイド長になるのはダメ?」

「あたし嫌だよ。そんなめんどそうなの。ただでさえルルみたいなメイドをやるの大変そうなのに、統率までしてらんねー」

「ミホはどちらかといえば昼行灯な裏方向けの性格だ。リエは元気があって大変よろしいが、メイド長を任せるにしては落ち着きが足りない。

 さてシライシ。君にお願いすることがある。今までの話を聞いて、お願いの中身はもう分かるだろう?」


 『びくとりあん』所属のメイドはリエちゃんとミホさんの2人だけだ。つまり――。



「今俺たちの環境に足りない要素。そいつはメイド長を務めることができる者の存在だ。早急に求人の募集をかけてくれ、シライシ」




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