夏祭りの夜~忘れたのか?
またリハビリです。
「一哉なの?」
一年振りの帰省。
近くの神社で毎年行われている夏祭りで浴衣姿の女に呼び止められた。
「やっぱり一哉ね、久し振り」
「...伐逸か?」
「そう紀美だよ」
それは元カノの伐逸紀美と9年振りの再会だった。
16歳から19歳まで三年付き合っていたが、都会の大学に進んだ紀美と地元の大学に進んだ俺は遠距離恋愛となり、紀美の浮気が原因で別れる事となったのだ。
「何か言ってよ」
気安く話す紀美に言葉が見つからない。
コイツは気まずさというものを感じないのだろうか?
それより伐逸の外見は昔とすっかり変わっていた。
身体つきは倍になり、声を聞かなかったなら紀美と分からなかっただろう。
30前の女が着ると思えない派手な浴衣、ケバケバしい化粧、更に歯も黄ばんでいた。
「結婚したと聞いたが?」
「知ってたの?2年前に離婚しちゃったけどね」
「そっか」
紀美が結婚したのは知り合いから聞いていたが、バツイチになったのか。
色々な修羅場があったんだろうな、知らんけど。
「一哉は今も一人?」
「え?」
急に何を聞くんだ?
「まだ独身だけど」
それが何だ?
「良かったら連絡先を交換しない?」
「なんで?」
巾着からスマホを取り出す紀美に益々不信感が募る。
断っておくが、未練は全く無い。
「止めとくよ」
「どうして?私ずっと後悔してたの、一哉とあんな別れをしてしまった事を...」
「それがどうした?お前と話す事なんか無い」
「そんな...」
紀美は携帯を手に固まった。
巾着の中から見える小さなケースは見た事がある。同じシガレットケースを愛用している奴が居たからな。
「子供は?」
「な...何の事?」
紀美が狼狽えている、知らないと思っているのか?
だとしたら滑稽だ、昔の俺みたいに。
何も知らないで会いに行き、紀美の下宿から男と出てきたのを見て、崩れ落ちる俺を嘲笑ったコイツ等の様に...
「アイツの子供だろ?」
「アイツとは直ぐ別れて、別の男と結婚して...あ!」
自爆しやがった、てっきりソイツの子供かと思っていたが。
「早く帰れよ、子供が待ってるだろ?」
「向こうに取られたのよ!知らないくせに聞いた口を叩かないで!」
なぜか怒り出すが、コイツが子供を取られた事情は知らない、興味も無い。
「俺、来月結婚するんだ」
「...嘘?」
「本当だ」
「...誰と?」
「教える訳無いだろ」
俺にとって大切なのは未来、お前との忌まわしい過去じゃない。
「それじゃな」
振り返らず、伐逸を残し家路を急いだ。
補足
伐逸紀美28歳。
一哉との交際は自分から告白した。
高校時代は純朴だったが、都会の大学に進み、すっかりハッチャケてしまい新しい恋人と肉欲に溺れてしまう。
一哉との破局後、新しい恋人とはお互いの浮気で別れた。
大学卒業後、就職した会社の先輩と交際を始め一年後に結婚し、子供にも恵まれるが、二年後に紀美の浮気で離婚。
浮気三昧で養育実績も無く、敢えなく親権を取られてしまう。
慰謝料を両親に払って貰う条件として地元に連れ戻される。
現在は近くの会社で働きながら細々と養育費を払い続けている。
夏祭りに来たのは一哉に会えるのではないかと期待しての事。
着ていた浴衣は高校時代に一哉と夏祭りで着ていた物。
かなりサイズがヤバかったが、何とか入った。
しかし一哉はその浴衣に気づかなかった。
山村一哉
紀美から酷い目に遭わされたが、何とか立ち直る。
二歳下の大学の後輩が一哉を支えてくれたお陰。
二人は愛を育み、都会の会社に就職し、貯金を貯め無事結婚を決めた。
今回一人で帰省したのは、恋人の仕事が片付かず、帰省が1日遅れとなったから。
紀美の事は本当にどーでも良いと思っている。
一哉の恋人、未登場
紀美の浮気に、ここぞとばかり猛アタックを繰り返した。
実は一哉と同じ高校で、ずっと人気者の先輩だった一哉は憧れの人だった。
一途に大学まで同じ学校へ進み、一哉を狙っていた。
お陰で結ばれ、幸せの絶頂!
一哉の両親からも立ち直らせてくれた恩人と凄く大切にされている。
今も一哉が大好き、もちろん浮気の心配ナシ!!