2-5 裏 雪視点
授業が終わり、クラブに行く。
その間は、いつも考えない。
余計なことを考えると、苦しくなるから。
※※※※※※※※※※
今から戦うのは、松だ。
松と戦うと、勝てる確率は三回に二回だ。
カン カンカン
カン カン カァァン
「勝負あり!!」
何とか、勝てた。
けど、あまりうれしい気持ちにはならない。
「失礼します!」
「あ。一年生だ」
「…………一年生?」
こんな初日から来るなんて、戦うのが好きなんだろうか。
「こんにちは。新入生かな?」
やっぱり、松はすごい。
私は、こんなに優しく話しかけられない。
「はい。一年生の、鏡止明水です」
「一年生が入ってくるのは久々だね、雪」
「………確かに」
「あの、雪先輩、松先輩、あいさつをした方がいいのでは……」
「そうだね。ありがとう、桜」
桜も、しっかりしている。
私は相槌を打つのが精一杯。
嫌われたら、いやだから。
「私は一之松。副部長だよ」
「わたしは、柏中桜だよ!」
「…………一之雪。部長……」
二人とも、しっかりした挨拶。
それに比べて、私は全然うまくできない。
「ごめんね、明水。雪は、人と話すのが苦手なんだ」
「いえっ、全然大丈夫です」
一年生も、猫をかぶっているのかも。
こんな先輩がいるなんて、いやだよね……。
「えっと、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
「明水ちゃん、よろしく!」
「…………よろしく」
松と桜と、一年生の明水が話してる。
その輪に、入れたらな。
そういえば、桜も話の輪に入れない、とか言ってたような…………。
なのに、一年生とたくさん話している。
桜が、うれしそうに、楽しそうに、明水と話している。
「…………松」
「ん? どうしたの? 雪」
「………桜が、すごく楽しそう」
「そうだね。表情がいきいきしてるね」
「前は、少しさみしそうだったのに………」
「明水の影響だろうね」
「…………明水、の?」
あの子が、何かしたのだろうか。
「うん。あの子は、ずっと笑顔だからね。桜が楽しそうで、うれしい?」
「うん………」
「そっか。よかったね。まあ、雪も少しでいいから、明水とコミュニケーションとってみたら?」
「うん。頑張る」
ついつい、頑張る、とか言ってしまったけれど、できるかな。
初対面の人と、コミュニケーションをとるって怖い。
嫌われるかもしれない。
引かれるかもしれない。
そんな思いが、いつも頭の中をぐるぐる回っている。
その時だった。
「雪先輩、雪先輩」
明水が、話しかけてきた。
「………何?」
「雪先輩って、兼部してますか?」
どうしよう。
兼部はしてない。
けど、魔法の実験を、習い事でやっている。
言うべきか、言わないべきか。
でも、松が「明水とコミュニケーションとってみたら?」って言ってた。
ここは、ちゃんと言うべきかも。
「してない、けど………学校とは別で、習い事はしてる」
「どんな習い事ですか?」
「魔法の実験………」
「え…………」
さすがに、だめ、かな。
魔法の実験してるって言ったら、みんな、笑いながら逃げてく。
最初はなぜ逃げられるのか、わからなかった。
でも、逃げた人たちが、「あの子、頭がおかしいんだよね」とか言ってた。
だから、このことは、一部の人しか知らない。
明水には言ってみたけど。
「……嫌われたかな……」
こんなことを松に言いながら、「ううん、そんなことないよ」って否定してもらうことを願ってる自分がきらい。
「さあ。まあ、明水がなんていうか、聞いといたら?」
「………大丈夫かな」
「珍しいね。雪が、そんなに嫌われるのを怖がってるなんて」
「だって…………」
「だって?」
「………松が、コミュニケーションをとってみたらって………」
「そっか。うれしいな。私の意見を聞いてくれるなんて」
松の意見を聞いたのは、明水に嫌われたとき、松にも責任があるから。
そのあと、桜と松が何か話していたけど、嫌われたらどうするべきかを考えていて、聞いてなかった。
「かなり、すごくないですか?」
明水が、急にしゃべった。
びっくりしたから、「…………え?」としか、反応できなかった。
でも、明水はそんなことを気にせずにいっきにしゃべりだした。
「魔法は、扱うのがむずかしいって、わたし、聞いたことがあるんです。そんな魔法を使えて、実験できるって、すごくないですか? しかも、雪先輩はかっこよくて、綺麗なんです! かっこよくて、きれいで、魔法もすごいって、雪先輩はもう、最強ですね!」
「…………」
びっくりしすぎて、何もしゃべれなかった。
魔法の実験の話をすると、大体は逃げてく。
逃げなかったのは、松や桜くらいだ。
たぶん、二人とも私が魔法のこと好きっていうのを、知ってたからだと思う。
でも、明水はそのことを知らないのにすごいって言ってくれた。
最後には、私が最強だとか言ってた。
うれしかった。
だから、お礼を言った。
「………明水」
「はい。何ですか?」
「あ………ありが、とう」
「? 何に対してですか?」
けど、明水はきょとんとしてたから、多分、お礼を言われた理由がわかってないんだろう。
説明するべきか、否か。
迷ってたときに、明水が頓珍漢なことを言い出した。
「雪先輩、わたし、ほめるのは得意なので!」
「「…………」」
わけが、わからなかった。
「明水ちゃん。何でそういう結論になったの?」
「あ、えっと。先輩がお礼を言った理由は、わたしが先輩のこと、ほめたからかなって思って」
「「…………」」
理由を聞いたら、私は明水にほめられてうれしいと思ってるらしい。
何それ?
「で、それだったら、わたしはほめるの得意だから、ちょうどいいかなって。あ、先輩をほめるって、変ですよね」
「ふ、ふふふ。明水が、雪をほめる……」
「明水ちゃんの発想って、すごい」
それでも、
(ああ、この子は優しいんだな)
と思った。
結局、松が私がお礼を言った理由を明水に説明していたけど、わかっていなさそうだった。
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「明水ちゃん。絶対、攻撃突出クラブに入ってね」
「? はい。入ります」
「明水。そろそろ、帰る?」
「はい。他のクラブも見るので」
「じゃあ、また今度ね!」
明水は、他のクラブを見に行くみたいだった。
攻撃突出クラブに入ると約束してくれた。
普通に接してくれる人がいて、よかった。




