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ガイアの戦士と魔獣

椅子に座って聞いていたアンバーが近寄ってくる。



「はいご苦労様。曲も歌詞も分かんなかったが、まぁまぁ良い歌だったよ。一曲歌い切ったから、一思いにやってやろうな。優しい俺様に感謝しながら死ね」



 死を目前に、息を呑んで目を見張る。


 嫌だ、嫌だ、死にたくない。

 

 しかし、私に振り落とされる刃よりも早く、誰かの剣がアンバーの首を跳ねた。

 一瞬の出来事だった。



「は、」


 切られた男の首の断面から、赤い返り血が噴水のように床降り注ぐ。生暖かい血飛沫が顔に少しかかって、やっと我に返って生きた心地を取り戻した。


 た、助かった。

 助かったんだ。


 死と隣り合わせという、壮絶な緊張感からか、今までまともな呼吸を忘れていた。やっと息を取り戻したかのように、空気を目一杯吸って吐き出す。


 アンバーが瞬殺され、周りにいた男達が狼狽えている束の間、同じ軍服を着ている仲間によって容易に倒されて行く。


 私達がどうにも抗えなかった脅威がこうも簡単に消えていく。


「すごい」


 どこからともなく聞こえてきた一言。

彼らの圧倒的な強さに、思わず唖然としてしまう。



 イヴを守るように、恐怖でしゃがみ込んでしまった彼女へ背を向け、周囲を見張る。そしてその視線は、やがて上の方で固定された。何かを注視しているかのよう。 


 彼が、何を見ているのかまで思考が追いつかないイヴ。まだ助かったという実感が湧かなく、彼の大きな背中を涙ながらに呆然と見つめた。


 この人が私を助けてくれた。

 黒い軍服に右腕の腕章には、本で見たドラゴンの紋章が入っている。漆黒の髪から、眼光鋭い金色の瞳が見える。


 まさか、ガイアの戦士?

唯一、魔獣とまともに戦えた元狩猟民族であり、現世界一の軍事力を持つ大国ガイアの?


 まさか、

 だってほぼ国交を断絶し鎖国状態にあるこの国を、ガイアの戦士が助けに来るはずが、



「お前が助けを呼んだのか」


ちらっと振り返り金色の瞳が自分を見下ろす、低く抑揚のない声にびくっと体が縮こまる。


 


しかし、



絶望からの解放は、長くは続かなかった。



講堂の屋根が壊れ、ドン、という大きな衝撃音と地震。

そしてバサバサという轟音と身が飛ばされそうになる程の突風に突如襲われる。



「……え?」


これが本当の絶望だった。

客席の真ん中に絶対的な死を思わせる、大きく黒い影。


「ギェェェェェェェッ」


 空気を切り裂くような、この世のものとは思えない鳴き声が地響きとなって振動が全身に伝わる。



 これは一体なんなの?

 もしかして、これが魔獣!?


 砂煙がはけて化け物の輪郭が見えてくる。


 よだれをだらーっと垂らして、床に水溜りができている。その口からはでかい牙が見え、赤い目をギラギラさせながら威嚇している。足元には逃げ遅れた人の体が踏みつけられ、血で赤く染まっている?


 さっきのアンバー達を前にして感じた絶望感よりも、遥かに死を直結させられる存在。まるで地獄からやって来たかのような化け物。

 もしかしたら、という望みさえ持つことを許さない禍々しい程の存在感がある。


 アンバーという脅威がいなくなったことに、一瞬安心したのも束の間、この化け物の登場にメンフィル国民の精神は完全に崩壊していた。


 「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁっ」


あちこちで叫び声や泣き声が聞こえる。


 絶対に死ぬ。絶対に助からない。

 皆祈ることをやめて、その場から逃げ出したり、腰を抜かしてしゃがみ込んだり、阿鼻叫喚する。


 初めて見るが、あれはおそらく本の中で出てきた"魔獣"といった存在。

 今までメンフィル国民とは無縁の存在だったのに、どうしてこんなところに突如出現したのか。


 「きゃあぁぁぁぁああぁあ」


 メンフィルの民衆の悲鳴が、会場中へ響き渡る。

 メンフィル建国以来、前代未聞の大事件が2件立て続けに起き、そしてその2件目の魔獣襲来は、国の存亡に関わる危機と言っても過言ではない。


 魔獣の襲来に対し、アンバーとともに来ていた、賊のような男達もメンフィルの民と一緒の反応だった。



「なんで、ジャンガルラがここにいんだよ!」


アンバーの仲間達ははなから戦う気もなく、大半が武器を捨て逃げ惑っていた。中には腰を抜かして後ずさり、魔獣の怖さを知っているからか失禁している奴もいる。


 この地獄絵図の中で正気を失っていない者が、外野席のシルヴィア達を除いて4人いた。


 正気を失っていないどころか焦りひとつ感じられない。むしろ、余裕さえ感じられるこの4人。いずれも黒い軍服を着ており、その中には、イヴを助けた黒髪金眼も入っている。


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