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ただいま

 どれくらい寝ているのだろう?


 体がだるくて動けない。けれど誰かが呼んでいるような気がする。


 はじめは遠くから聞こえてきた自分を呼ぶ声も、次第に近くで聞こえてくる。


 「り…聖理!」


 そこで意識が急激に覚醒してゆき、聖理は目を開けた。


 視界は自分を心配そうに見下ろしている仲間たちの顔で占拠されている。


 「みんな?」


 どうしてそんな顔で自分のことを見ているのか最初はわからなかったものの、先程の出来事が次第に思い出される。


 水澄はどうなったのだろう?


 それに志郎は?


 朧げにだが、自分の中に志郎がいた時の感覚は覚えてる。そしてその影響なのか、彼が自分の中にいた時、彼の感情が痛いほどによくわかった。


 それまでは志郎のことをどこか自己中心的な困った人という印象だったが、今ならわかる。ただ彼は夢に真っ直ぐすぎただけの、普通の青年だったのだ。


 それが2つの世界を行き来できるようになったという、奇跡に近い偶然がきっかけで歯車が狂ってしまった。


 どうか報われてほしい。そう願わずにはいられなかった。


 2人がどこへ行ったのか。それは自分たちにはわからないし、知ったところでどうすることもできない場所なのだろう。


 永遠に魂はそのまま存在し続けるのか。それとも生まれ変わることはあるのか。望みを言えば後者であってほしい。


 そしていつかまた生まれ変われたのなら、今度こそ2人で幸せになってほしい。自分を壊してまで特別な何かにならなくたっていい。ただ2人で笑っていてくれたらそれだけでいい。


 そこでふと思う。もしかしたら志郎と自分は少し似ていたのかもしれないと。


 平凡な自分を残念に思っていた。これといった目標もなく、ただなんとなく毎日を過ごしているだけ。


 彼ほどの目標も志もなかっただけで、心のどこかでは自分も何者かになりたかった。主人公に憧れていたんだ。


 そしてきっと、みんな口にしないだけでそう思っている人は他にもたくさんいる。


 けれど自分では自身を脇役だと思いながら、気づかぬうちにみんなそれぞれの物語で主人公として生きている。


 ここにいる人たちだって、それぞれの葛藤や悩みを抱えながら必死にもがいている。特別な能力もない。かっこよくもない。


 それでもがむしゃらにもがく主人公たちが、この場にはいる。あの2人だってそうだ。


 誰かに認められたいと志郎は悩んでいたが、彼の劇団を応援してくれていた人は決して多くはなかったかもしれないがたしかにいた。それに何より、ずっと隣に水澄という唯一無二の存在がいたのだ。


 ただ目が霞んでしまってそれが見えなくなってしまっていただけなのだ。


 水月の館があった場所へと視線を移すも、そこには焼け跡すらなかった。


 元から本当は存在していないものだったためか、火を放たれたというのに、館のあった場所はまるで最初から何もなかったかのような更地だった。火事に巻き込まれたというのに、自分たちも傷ひとつない。


 「終わったんだな」


 龍之介がそう呟いた。


 たしかにこれで終わったのかもしれない。けれど自分たちの物語はまだまだ続いていく。それに水澄と志郎にとってはむしろここからが新たな始まりと言ってもいいだろう。


 (これから私がすべきことは…)



 「君たち、ここで何をしてるんだ?」



 驚きのあまり心臓が止まりそうになった。



 いつぶりだろう。




 自分たちと水澄、志郎以外の人間の声を聞いたのは。

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