去らぬ嵐
拓実と共に何とか火の手から逃げ出し、聖理は再び水月の館へと戻ってきた。しかし…。
「何、これ…?」
空からは真っ白になった頭に叩きつけるような雨が降っている。そして雨が濡らしているのは自分たちだけではなく、燃えて変わり果てた姿になった水月の館だった。
ただひとり焼け跡に佇む龍之介を見つけ、いったい何があったのか。水澄はどうしたのかを尋ねるも、心ここに在らずといった様子でまともな返答を聞くことはできなかった。
それからしばらくすると、ミッションで別行動をしていた3人も合流し、そこでようやく彼から詳しい話をきくことができた。
これには一同、驚くことしかできなかった。
そんなことをして水澄は無事だろうか。いくら本人が大丈夫だと言っていたとしても、流石に心配だった。
これからどうするかと議論したが、現状の自分たちにできることは何もない。
とにかく今は信じて待つことしかできないという結論に至り、しばらくその場で待ち続けた。
雑談を持ちかける者は当然いない。そのままどれほど待っただろう。
いつの間にか雨は止んでいて、濡れたせいもあるのだろうが、夏だというのに身体はすっかり冷え切っていた。
思わず両腕で自分の身体を抱きしめるようにして身震いしていると、焼け残った瓦礫の中から『ガタン』という音がしたかと思うと、その中から2人の人影が現れた。
1人はやはり水澄で、もう1人は彼の腕に抱き抱えられている。大人の男性だ。
水澄が無事だったことへの安堵感と、抱えられている正体不明の男への警戒心を同時に持ちつつ、急いで水澄の元へと駆け寄った。
「この人は?」
成人男性を運んだことで息が上がってしまった水澄の呼吸が治るのを見て、聖理は尋ねた。
「あー…えっとな」
水澄は言いにくそうにしていたものの、順番に彼について説明してくれた。
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説明を聞き終えて、聖理は衝撃を受けながらもどこかで納得していた。
何より、彼に負の感情以外…先程自分たちも会っていた幼い彼のような一面を持っていたということに安心していた。
とにかく、柳田と違い、この彼には負の感情がないのだから危険性はないのかもしれない。そう思い、張り詰めていた緊張感が少し和らいだ。
だがそれがいけなかった。
「え?」
それにより、そこでほんの一瞬だけ、隙が生まれた。
気づいた時にはもう遅く、聖理の腕は棚田志郎にがっしりと掴まれていた。
「ちょっと、痛い…!」
思わず振り解こうとしたが、驚くほどにびくともしない。そしてそのままじっと瞳を見つめられ、彼の唇がこう動くのを聖理は見た。
『譲れ』と。
その瞬間、聖理は目の前が真っ暗になった。




