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夢を語る

 のっぺらぼうの少年はまだ泣いている。


 もしかしたらここにいる時からずっとこうなのかもしれない。

 

 かといっていつまでもこのままでいるわけにもいかず、聖理は屈んで少年の視線(?)と合わせるようにして、迷子の子どもに問うような声で尋ねた。


 「あなたはどうしてここにいるの?」


 少年は吃りながらもなんとか答えた。


 「わからない」


 「じゃあいつからここにいるの?」


 「それもわからない」


 何を訊いても『わからない』ばかりだ。これでは事態は何も変わらない。



 「じゃあ」


 それまで黙っていた拓実が口を開いた。


 「お前は何がしたいんだ?」


 その言葉に、聖理はつい彼を見上げる形で振り返った。おそらく柳田としての彼の企みについて問いただしたいという意味もあったのかもしれないが、この言葉にはつい過敏に反応してしまった。

 それが少年に対してだけでなく、彼自身にも向けられた質問のように思えたのだ。そして聖理にとっても。


 結局のところ、自分たちは何がしたいのか。

 

 簡単な質問。でもそれにはっきりと答えられる人はどれほどいるのか。


 少年ものっぺらぼうの顔を上げて、質問の意味をじっくりと考えるような素振りを見せた。けれどしばらくの間を置いてから、彼ははっきりと答えた。


 「みんなと」


 ここで更に間を置いて、けれどしっかりとした決意の感じられる声で続ける。


 「お芝居でたくさんの人に認められたい」


 『認められたい』。その言葉が胸に刺さった。

 それは誰もが持っている願いなのかもしれない。ただなんとなく生きているだけでなく、何者かになりたいと。


 この時初めて、棚田志郎という人物の人間らしい一面が見られた気がした。


 彼だってはじめから狂人だったわけではない。ただの夢見る青年だったのだ。それがふとした時に歯車を掛け違えてしまったように、狂ってしまった。


 それによって今もこうして苦しみ続けている様子を見ると、つい同情してしまいそうになる。



 そんな彼を見て聖理は思った。


 この彼が柳田の残り半分の棚田志郎なのかはわからない。けれど、彼は間違いなく、本来の彼の一部だ。


 ここに水澄がいれば詳しいことも予測できたかもしれないが、きっとこれは『素』だという直感がある。


 大袈裟な仕草も無ければ、芝居がかった口調も無い。これがかつて、仲間たちと夢を共にした本来の彼の姿なのだ。



 目の前の少年が急に、庇護せねばならぬ小さな存在に思えてきて、聖理は手を伸ばしかけた。



 その途端。


 急激な暑さに身が襲われた。


 何処からともなく、突然周囲が火の海になったのだ。


 混乱する頭の中、『こっちだ!』と叫ぶ拓実の声が聞こえる。その方向を見ると、確かに彼が示す場所にはまだ火の手が回っていない。


 無意識のうちに、聖理は少年も連れて行こうとして、彼の方へと手を伸ばした。


 けれどその瞬間、少年はまるで気体のようにその場から姿を消してしまった。


 それからの記憶はほぼない。それでも少年を探そうとしたところを、半ば強引に拓実に引きづられ、2人はなんとか火の猛威から脱出したのだった。

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