待ち人たち
外部との連絡を試みて外へ出た2人を見送ると、聖理は少し休みたいからと言って、自室へと戻る。戻るとすぐにベッドの上へと、仰向けになる格好で倒れ込む。
天井を見上げながら考えるのは、外へ出た彼らの安否と、先ほどのミッションのことだ。
あの手紙を置いたのは柳田なのだろうか。そしてその彼は今、あの鍵のかかった地下室にいて、自分たちにその鍵を探させて、地下室を開けさせようとしているのか。
だとすると、いったい何の為に?まさか夏休みの思い出作りだとは言わないだろう。一瞬、「余興でした!お楽しみいただけましたか?」と、大袈裟に手を広げながらふざけたことを言う柳田の姿が頭をよぎる。
何にせよ今の状況ではわからないことだらけだ。この状況を打開する為に今実行していることとしたら、奏多と龍之介が外部との連絡を取る為に駅へ向かっているだけ。自分はそれをただひたすらに待っている。
当然、もどかしさを感じるが、かといって自分に何ができるだろう?天井を見上げながら問いかけても、天井は答えをくれない。
じっとしているのも落ち着かず、部屋の中を詳しく見てみる。単に気持ちを紛らわせる為でもあったが、おそらく心のどこかでは、「地下室の鍵が見つかるかもしれない」という考えもあったと思う。
しかしそんな都合よくお目当ての品が目の前に登場してくれるはずもなく、鍵らしきものは見つからない。
やはり探させるからには誰かの自室ではなく、食堂など誰でも簡単に立ち入れる場所に隠してあるのかと、捜索を諦め出した時。ベッドの横にあるサイドテーブルの引き出しが少し開いていることに気づく。聖理の記憶が正しければ、早朝に部屋を出た時には引き出しはしっかりと閉まってあったはずだ。
少し緊張しながら引き出しに手を掛け、更に引っ張り出す。
一瞬、鍵が入っていやしないかと期待したが、そうではなかった。
中には一冊の本が入っていた。ただし、その本にも鍵がかけられていて、それを外さなければ中が見られないようになっている。
また鍵かとうんざりしたくなるが、この非常事態ではいつ、何が役に立つかわからないので、とりあえず本を引き出しの中に戻してしまっておく。
そしてやはりここには地下室の鍵は隠されていないであろうことはわかったので、次の行動をどうするか考える。
けれどどんなに非常事態であろうとも、生きている以上、空腹は覚えるものだ。突如、食堂に出現した食事には手をつける気にならないが、こんな立派な別荘だ。探せば非常食や缶詰なんかを見つけられるかもしれない。
そう考えたら、実行は早い。早速、自室を出て台所を探す。(客人なので当然だが、台所の場所は案内されていないので自力で探すしかない。)
そうやって別荘の中を捜索していくうちに、建物内の詳細がわかったきた。(柳田が行方不明なおかげで気兼ねなく別荘の中を探索できた。)
まず、一階には客人を迎え入れる広々とした玄関。そして玄関から入って右側には、厨房,倉庫,使用人の休憩室らしき部屋があった。(厨房にはちゃんと食糧が、倉庫には日用品があり、当分の生活には困らなそうだった。)
そして左側はすでに知っている通り、食堂があり、まだ使ったことはないが、談話室のような部屋もあった。
階段を登った二階には、聖理と開,拓実の借りている部屋。
更に書庫がある。
最後に三階は、龍之介,奏多,杏奈の部屋(昨日本人たちに聞いた)と、何に使われていたのかはわからないが、一室の和室と、小さなステージ付きの広間があった。体育館や公民館に
似ているような空間だ。
と、これでこの館の中身は一通り確認できたことになる。するとそこで再び思い出されたのが、空腹である。他の留守番メンバーも誘って食事の支度でもしようかと思い、探すために再び一階へと戻る。そして、誰かしらはいるだろうと考えて入った食堂で、思いもしなかった光景を目にして、聖理は正に、跳び上がるほどに驚いた。
『ちょっと、何してるの⁉︎』
一方、食堂のテーブルには、動揺する聖理とは正反対に、落ち着いた様子の拓実が座っていた。…例の誰が用意したかもわからない料理を食べながら。
『何って、見ての通り、食事だよ。最初はこんな得体の知れないものはどうかと思ったけど、やっぱり腹が減るのはやめられねぇし、開もあの女も完食しても何ともないみたいだったし、なら俺も食おうかと』
あの女というのは杏奈のことだろう。2人が何ともないのなら、確かに安全なのかもしれない。彼の言う通り、空腹はやめたくてもやめられないので、ここは自分も彼らにならって、ありがたくいただくことにする。
ただ、その得体の知れないものを実の弟が完食する様を止めなかったのだろうかということは気になったが、ここは目を瞑っておこう。
料理を口に運ぶと、用意されてからだいぶ時間が経っているはずなのに、何故かそれは温かさを保っていた。けれど、ここへ来てからというもの、驚いてばかりいたためか、そんなのは些細なことのように感じられた。