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断たれた帰路

【第3部】


 「…っ⁉︎」


 目を覚ますと見慣れぬ天井―借りている別荘の自室の天井だった。顔を上げて時計を確認する。


 時間は朝の5時半。まだ早い時刻だが、とても二度寝する気分でも状況でもない。すぐに起き上がり、身支度を済ませると部屋を出た。


 向かう先は食堂だ。昨夜も明朝にそこへ集まるようにと話し合っている。中へ入ると、まだ早いというのに、先客が2人もいた。


 杏奈と龍之介だ。奏多とは彼の人柄に加え、昨日の緊急事態の際に話したので少しは打ち解けたが、この2人と一緒というのは気まづい。しかも普段なら聖理が避けてしまいがちな人種だ。かと言って一度入ったしまった手間、引き返すわけにもいかない。


 「…おはようございます」


 なんとかそれだけを搾り出すようにして言い、適当な席に座る。すると杏奈は、「んー」と返事をして、少し目をこちらに向けたが、またすぐにそらしてしまう。一方、龍之介は「おはようさん」と、軽くはあるがちゃんと挨拶し返してくれる。


 けれど、挨拶が終われば食堂を再び沈黙が襲う。誰か他に来てくれればいいが、時刻を考えるとあまり期待しない方がいいだろう。何か話題をと、必死に考えるけれど、こんな時にすんなり話題が振れるようなら、日頃の悩みも減っている。


 そんな時、龍之介がふと、思い出したというように話しかけてきた。


 「そういやお前、いとこたちと一緒に来てるんだろう?衛藤じゃ3人もいて誰が誰だかわかんねーから、聖理って呼んでもいいか?」


 自然な流れで話を振りつつ、そう提案してきてくれた龍之介に、聖理は心の中で大きな声でお礼を言う。


 「はい、大丈夫です!そう呼んでください。よろしくお願いします。東堂さん」


 頭を下げながらそう言うと、彼は少し困ったように右手を自身の顔の横で軽く振る。


 「あー、いいよそんなかしこまった話し方じゃなくて。俺はどうも堅苦しいのが苦手なんだ。気軽に龍之介とでも呼んでくれや」


 「でも、東堂さん私より3つも年上だし…じゃあ、龍之介さんって呼ばせてもらいます」


 一度は断ろうとしたものの、目で要求され続けている気配を察知し、そう言うと本人も納得したようで、『おう、それでよろしく』と言っている。


 龍之介が話を振ってくれたおかげで場が和んできたのを感じ、この機会を逃すまいと、聖理は杏奈にも声をかける。


 「佐倉さんも、私のこと聖理って呼んでくれていいですからね?」


 名前を呼ばれたら流石に無視はしない。それまで無関心だった杏奈が初めてまともに聖理と向かい合った。けれど、何か長く喋ることはなく、「わかった」と返事だけをする。


 そうこうしているうちに、他の3人が共に食堂へと入って来る。けれど彼らの表情は何故か暗く、何かを考えているようだった。


 龍之介もその異変に気づき、何があったのかと問うと、間を開けて言葉を選ぶようにしながら奏多が口を開く。


 「朝起きてから、柳田さんに話をしようと思い、僕は彼を探していたんです。そうしたら途中で彼らと合流したので手分けして探したんですが…彼がこの屋敷のどこにもいないんです」


 「それだけじゃない。俺たちがここに連れてこられた時に乗った車、昨日は玄関の前に駐車してあっただろ?その車もなくなってる」


 奏多の説明に続けて拓実もそう告げる。


 「…え?」


 2人の言っていることは理解はできるけれど、気持ちがついていけない。こんな訳の分からない場所に残されたまま、帰る手段となる車と、案内人が消えたのだ。落ち着いてる方が異常だと思う。


 その場にいる全員が戸惑っていると、杏奈が声を上げる。


 「ねえ、地下室は確認したの?」


 「地下室?」


 5人の視線が杏奈へと集まる。


 「ここ、地下室があるんだよ。私がまだここに来たばかりだった頃、見たことがあるの。中には入ったことないけど。さっき、屋敷中探していなかったって言ってたけど、それなら地下室に柳田さん、いるんじゃない?」


 龍之介が勢いよく立ち上がり、大きな声で言う。


 「その地下室とやらの場所に案内しろ!あいつを見つけ出してこの状況を説明してもらわなきゃおかしいだろ」


 龍之介と彼に案内役として連れて行かれた杏奈を先頭にして、6人は食堂を出て、柳田がいるであろう、その地下室へと向かうのだった。

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