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誰もいないのに

 正午を知らせる時計の音もすっかり止み、今はまた不気味なほどの静かさが戻ってきている。



 荷物の中から抜き取った折りたたみ傘を手にして、聖理は恐る恐る廊下へと出る。



 誰もいないとは思うが、さっきの時計の音のこともあり、いざという時に何か武器になりそうなものがないと不安だったので、大した攻撃力がないのは明らかだが何もないよりはましだと持ってきたのだ。



 地下室には色々なものがあったが、どれもあの少年が何者なのかがわかるようなものはなかった。



 となると、あとは書庫か。あるいは、屋敷中を探し回るしかもう、思いつく捜査方法はない。できればこんな不気味な屋敷を歩き回るのは避けたいところだが。




 他にはどこか手がかりになりそうな場所はなかったかと考えていると、ふとひとつの場所が頭に浮かんだ。



 まだここに来たばかりだった頃、屋敷内を探索した時のこと。大広間のような場があった。聖理が学校の体育館を連想したあの場所だ。



 特に気になるようなものがあったわけではないが、なぜこの屋敷にあのような部屋があるのか。考えてみれば妙だ。使い道が不明すぎる。



 この屋敷内にある個人用の部屋は、今回招かれた聖理たちの人数と同じ数。つまり、6人分のみだ。それに対して、あの大広間は、ざっと100人は収容できる。


 いったいあの部屋は、何の目的で作られたのだろう。一度気になってしまうと、いてもたってもいられず、聖理はあの大広間へと向かうことにした。



 なんとなく忍び足になりながら階段を登り、大広間へと続く扉の前に立つ。



 扉に手をかけようとした直前、何か聞こえた気がして、咄嗟にその手を止めた。



 とても小さい。けれどたしかに聞こえる。誰かが大広間で何か話している。そういえば、この部屋だけはここへ来てから一度も使ったことがなかったので、他に人がいないか探し回った時にここだけ探し忘れていた。



 しかし、自分の他に誰かいたという安心感は皆無だった。今中にいるのは、おそらく自分が会いたい人たちの誰かではない。微かに聞こえてくるその声は、とてもきれいだけれどどこか儚げのある、今まで聞いたことのない声だった。



 よく聞こえないが、何かを懸命に話し続けている。なんとなく恐怖を覚えた。



 どうするべきか。このまま中へと入っていくのはこわい。かといって、このまま回れ右でこの場から逃れたとしても、正体不明の知らない人と屋敷で2人きりだ。さらに言えば、明けない夜に包まれた外へと逃げる勇気も残念ながら持ち合わせていない。



 やはりここは中へ行くしかないか。とりあえず中の様子を伺おうと、音を立てぬようにゆっくりと、慎重に扉を少しだけ開けた。



 すると先ほどよりも鮮明に、中の人物の声が聞こえてくる。何か話していると思ったが、何やらひとりで口調を変えながらひたすらに話し続けている。まるで芝居のようだ。



 中の人物は、扉が少し開かれていることには気づかなかったようで、その芝居は中断されることなく続いている。



 それを確認すると、聖理は意を決して、その作った隙間から覗き込んで、声の主の姿を目で探す。大広間の、本来なら客席が作られていたのであろう場所には変化はなく、前に見た時と同様にがらんとしている。


 そこには誰もいないとわかり、視線を客席の場から舞台上へと動かして、聖理は驚きの声をあげるのをなんとか堪えた。



 そんな自分を心の底から褒めたいと思う。




 なぜなら舞台上に、こちらに背を向けたひとりの男の人の姿があったからだ。



 それもまるで水の中にいるかのようにその体がぼやけている、この世のものとは思えない姿をした、男の人が。



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