屋敷の謎とこれから
今、食堂はなんとも重い空気が流れている。それも無理もないことで、自分たちが抱える問題がありすぎるのだ。
まず、聖理があの空間で見聞きしたことをみんなに話すと、やはり半信半疑といった反応をされた。
そして次に開の話を聞くと、彼は聖理とはぐれた後、突如現れた謎の美少年と接触したこと。さらにこの屋敷の創設者である、『棚田志郎』の名前を聞いた途端、様子がおかしくなり、それと同時にあの暗闇の空間が崩壊し、気がつくと廊下の床に叩きつけられるようにして落下したことを話してくれた。
ちなみに軽い打撲以外は怪我もなく、少し休んだ今はいつもとほぼ変わらない様子で、聖理は心の中でほっと息をついた。
また、彼の言う謎の美少年の特徴を聞いたところ、聖理が以前に夢で見た、少し成長した姿のあの少年である可能性が高いということもわかった。
そして聖理を驚かせたのは、自分と開がよくわからない場所へ行っている間に、第3のミッションが達成されていたことだ。
聞くと、聖理と開が謎の穴へ落ちた時、あの場にいなかった拓実はひとり地下室へ行き、手がかりになりそうなものを探していたのだそうだ。
そこで手に取ったアルバムの中に、食堂に飾られていた写真と同一人物と思われる男性の写真を見つけ、そのわきに手書きで『昭和50年,棚田志郎さん』と書かれていたため、運良く短時間で難なくわかったらしい。
そこで早くみんなに知らせようと地下室から戻ってきたところに、弟が上から降ってきたそうだ。
それから杏奈は、部屋を確認したが結局彼女は不在で、屋敷を一通り探しても見つからなかった。
それでとりあえずは5人だけでこの場に集まり、それぞれ見聞きしたことを共有しているわけだが、彼女の非協力的な態度を良く思っていない人はやはり少なくないようで、半ばもう放っておいてもいいだろ、という空気が流れ始めている。今のところまだ誰も言葉にはしていないが。
そんなわけで、今特に注目すべき点としては3つだ。
ひとつは、この屋敷の創設者である棚田志郎とは、いったい何者なのかということ。
ふたつめは、聖理と開が見た謎の美少年がその棚田志郎となんらかの関係があると思われること。
そしてもうひとつは、聖理が見た、あの2人が湖の中へ飛び込んだ後どうなったのか、またはどこへ行ったのかということ。
おそらくこの3点の謎がはっきりすれば、このような事態になっていることの説明にも繋がるはず。けれどそれが簡単にわかるはずもない。
結局その日はそのまま報告会を続行し、これもまたすっかり慣れてしまったいつの間にか用意されている夕食を平らげ、今日は色々なことがあって疲れたからと、早めに就寝することにした。
聖理もすっかり疲れてしまい、横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。
この日は本当に疲れていた。
だから気がつかなかったのだ。
いつもなら、ミッションが達成されると、すぐに新しいミッションが提示される。
なのに、今回はそれがないということに。