密告者を訪ねて
なんとも言えない、気まずい空気が食堂を満たす。
自分たちの中に柳田、もしくは裏の誰かと通じている人がいるかもしれない。いとこの開と拓実はもちろん、他のここで出会った人たちも、共にこの非常事態を乗り越えてきて、出会って間もないがそれなりの信頼関係を築けたつもりでいる。
場合によっては裏切り者とも言えるわけで…。
「この中にこっちの情報を流してるやつがいるってどういうことだよ⁉︎最初から俺たちを騙してたのか!」
すっかり怒ってしまった龍之介だが、ふと何かを思い出したように静かになり、そのままどこかへ行こうとする。
「どこに…」
彼の怒りのオーラに負けて、行くつもりなのかという言葉まで続かなかった。けれど、それでも意味は通じたようで彼は言う。
「俺たちの中に裏切り者がいるとしたら、あの女しかいないだろ。ミッションにも協力してこないし、最初から愛想もなかったし、まずあいつを疑うのが普通だろ」
それだけで、彼の言うあの女とは杏奈であることはすぐにわかった。
その意見に同意する者は他にもいたらしく、食堂を出て行く龍之介の後に、開と少しためらいながらの奏多がついていく。
聖理も遅れをとりながらも彼らの後を追う。けれど、唯一拓実だけはその気がないらしく、動く素振りが全くない。
その様子から、彼を同行させることを早々に諦めて、聖理も食堂を後にした。
果たして彼らの密告者、自分たちの裏切り者は杏奈なのか。
確たる証拠がない以上まだ決まったわけではないが、たしかにこれまでの状況を考えると、彼女がそうという可能性が1番高いように思う。
しかし、何の為に?その理由はいくら考えたところでわかるはずもない。
自分たちとは普段から別行動をしている杏奈の行動パターンは単純だ。大抵は与えられた自室にこもっていて、たまに談話室でスマホをいじったり化粧をしているところを見かける。
なのでまずは彼女の自室を訪れることにした。食堂を出た順番通り、龍之介が先陣を切ってドアをノックする。けれど応答はない。
「おい!いるんだろ、開けろ」
それでも中からは物音ひとつしない。もしかしたら本当に不在なのではと思った、その矢先だった。
突然床が大きく揺れ、その衝撃で聖理は立っていられず床に倒れこんだ。
「地震か⁉︎」
聖理も最初はそうかと思ったが、どうやらそうではないらしい。本当に、今自分たちがいる廊下の床だけが揺れているのだ。
なんとか立ち上がりながらも、やはり1人ではまともに立たずすぐによろけてしまう。そこを開がすぐに手を差し出して支えてくれて、今度は転倒を免れた。
安心したのも束の間、足下でギー、というなんとも不審な物音がする。
けれど揺れはだいぶ落ち着いてきて、今度こそ一安心…と、思った時。
「え」
それまではたしかにあった床が消えていた。代わりにその下に、真っ暗な空間が広がっている。そして、この状況で足場をなくした人間がどうなるかは言うまでもない。
聖理と、聖理を支える為に近くにいた開は、そのまま床下にできた真っ暗な空間へと落ちていってしまった。