プレイヤーとミッションと…
前回の続きです。
まだまだ序章ですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします!
【第1部】
予告されていた通り、1時間ほど車で運ばれていくと、目的地である別荘らしき建物が見えた。とても大きいとは言えないし、新しい建物でもない。それでも清潔感はあり、どこか昔遊んでいた人形の家を思い出させるような可愛らしさがあった。
3人が車から降り、柳田から各々荷物を受け取る。中に入ってみると、外観から受けた印象を裏切ることのない、おしゃれな内装になっていた。
それぞれ案内された部屋へ行き、荷物を置く。ある程度荷解きが落ち着くと、廊下へ出る。3人が揃ったことを確認すると、柳田は満足そうな笑みを浮かべながら、一度うなづいてみせた。
「それでは皆さまお揃いですね。もうすぐ夕食の支度が整いますので、食堂へご案内します」
駅からここまで結構な時間を要したため、時計はいつの間にか午後5時45分を示していた。
廊下をしばらく進んでいくと、他の部屋のものとはだいぶ造りの違う扉が見えた。柳田はその扉の前で止まるとノックをする。どうやら先に到着している他のメンバーが既に中にいるようだ。
「失礼します」という柳田の声と扉の開く音に反応して、2人の人物が聖理たちの立つ入り口に注目する。
もしかしたら幼い頃に会ったことがある可能性もあるが、2人ともおそらく初対面だと思う。今回呼ばれた他のメンバーの中で、最初に会ったのが拓実と開だったことも相まって、突然知らない人と顔を合わせることに気まずさを感じてしまう。
するとそれを察してか、柳田が紹介役を買って出てくれた。
「こちらの御三方が、先ほど到着された衛藤様方です」
たしかに、3人とも苗字は衛藤なのでその紹介は決して間違っていない。だが雑過ぎやしないか。先ほどの荷物を預けた時の対応は非常に丁寧だったのに、こういうところは手を抜く男らしい。この柳田という人は。
彼の不十分な紹介をカバーするような形になりながらも、3人はそれぞれ自分の名前と年齢を告げる。(それと一緒に拓実と開が兄弟で、聖理が彼らのいとこであることもここで言っておいた)
3人の紹介が終わると、それを最後まで静かに聞いていた少年が立ち上がり、会釈をする。
「はじめまして。僕は星宮奏多といいます。歳は16歳の高校2年です。どうぞよろしく」
一目で育ちが良さそうなことがわかる立ち居振る舞いだった。聖理は何故か自分の右隣にいる拓実の方を見てしまう。
(だがしかし、当の本人は奏多に「よろしく〜」などと軽い返事を返していたのでそのことを知る由もなかった)
奏多は挨拶を終えると、彼が座っていた場所から見て右斜めの位置に座り、聖理たちには目もくれずにスマホをいじり続けていた少女の方に視線をずらして告げる。
「ちょっと、あなたも挨拶くらいしたらどうですか。短い間とはいえ、ここで共に過ごす人たちなんですから」
奏多にそう指摘され、少し不機嫌そうに顔を上げた少女を見て、情けない話、聖理はひとり怯えてしまった。
(うわぁ、話合わなそう…)
彼女は派手な見た目をした、まさに今どきの女子という感じだった。おそらく年齢は聖理とそこまで変わらないはずなのに、髪は明るい茶色に染めて、メイクもバッチリしている。(それも少し…いや、かなり濃いめの)
人を見かけで判断してはいけないと思いながらも、自他共に大人しい子と評している自分が仲良くなれそうには到底思えない。向かうも同じように思ったのか、それとも単に興味がないのか、再びスマホへと視線を戻しながら、とりあえずといった感じに適当な挨拶をする。
「佐倉杏奈、高3、以上」
それ以降はもう用は済んだと言わんばかりに背中を向けてくる。これは予想通り、仲良くするのは難しそうだ。
先ほどの彼ー奏多も流石に諦めたらしく、彼女から視線を逸らし、再び3人に向き合う。
「本当は僕も君たちと同じ車でここに来るはずだったんだけど、昨日からちょっと家の方がゴタゴタしてて、この辺りで1番近いカプセルホテルにでも泊まろうかと思ってたところ、偶然そこに柳田さんが通りかかって…事情を話したら予定よりも1日早いけど泊めてもらえることになったんだ。あの時は本当に助かったよ。1番近くって言っても、ここから結構離れてたしね」
「まあそりゃあ、こんなど田舎じゃカプセルホテルどころか、この別荘以外何もないからn…イッタ‼︎」
もうほとんど言い終えてしまっているため手遅れな気もするけれど、『失礼だろ』と言いたげな顔で開が拓実の脛を蹴り上げる。
駅から薄々思ってはいたけれど、成長したことで体の大きさや力の差が生じなくなったためか、昔のように開が一方的に拓実に負かされることはなくなったようだ。駅でさりげなく自分の荷物を拓実のトランクの上にも載せていたし、もしかしたらこの5年ほどでこの兄弟の立ち位置は変わったのかもしれない。だとしたら拓実が少し不憫に思えてくる…。
奏多の言う、『家でのゴタゴタ』が何なのかは気になるが、初対面の相手にそこまでずけずけと質問する気になれないのでそれはやめておく。しかし、それで彼が予定よりも早くこの別荘に到着していた理由はわかった。
となると彼女はどういった理由なのか…聞いてみたいと思うも、やはり自分とはだいぶ系統の違う女子に声をかけるのは、聖理にとってハードルが高すぎる。
助けを求める気持ちを込めて隣に立つ2人を見ると、それに気づいてくれたらしい拓実が、他の人には気づかないほどに小さく片手を挙げた。『任せろ』と言ってくれているらしい。
「で?奏多はそういった理由らしいけどあんたは?まずいつ頃ここに着いたの?」
あまりにも彼女が周囲に興味が無さそうだったため、これは答えてくれないかもーなどと不安に思ったのも束の間。
「…3週間前」
「「「…え⁉︎⁉︎⁉︎」」」
予想外の返事に、3人同時で反応してしまった。
彼女はスマホをいじったままだったが、そのまま話の続きをしてくれる。
「私こんなだけど一応もう高3だからさぁ。親とか教師とかに、もっとちゃんとしろって言われて五月蝿いわけ。そこでいっそ家出してやるか、って考えてたらちょうど孝宏さんから今回の誘いがあったから、せっかくだから一足早くこっちに来させてもらって、そのまま家出してる」
衝撃的な理由に、その場にいる誰もが何も言えない。そもそも、3週間前からここにいたということは、ちょうど7月に入った頃だろうか。
………だとしたら日本の高校生は期末試験に追われている時期ではなかろうか。3年生でなくても流石にそれはよろしくないのではと、決してできないけれど声を大にしてツッコミたい。
「なんだか個性の強そうなのもいるな」
戸惑う私に、開が他の人には聞こえない小声で話しかけてきた。私はその言葉に何度も頷く。
すると今度は何やら部屋の外が騒がしくなった。どうやら玄関で何か話をしているようだが、内容まではここでは聞き取れない。少しすると話が終わったようで一度は静かになるが、今度はドカン、ガタンと、何かを運びながら歩く音が別荘に響き渡る。そしてそれは食堂の扉の前で止まり、間髪開けずに扉が豪快に開かれた。
その瞬間、部屋の空気が凍り、時が止まったー気がした。だがそうなるのも無理はない。さっきから大きな音を立て続け、たった今食堂の扉を開けたのは、絵に描いたような柄の悪い大男だったからだ。
身長はおそらく180は超えているだろう。目つきも悪く、サングラスをかけていることで余計に怖さが増している。その手には宿泊のための荷物を詰めているのであろうスーツケースの他にも何か持っている。むしろそちらの荷物の方が多いくらいだ。
この男の登場には聖理たち3人だけでなく、奏多と杏奈も衝撃を受けたようで、みんなして固まってしまっている。
唯一、柳田だけが、待ってましたというように彼の登場を歓迎する。
「よかったです、無事に辿り着けたようで。もう少し待ってもいらっしゃらなければご連絡しようかと思っていたのですが…ここまでお一人で来るのは大変だったでしょう?」
「途中、色々寄りたかったからいいんだよ。それにここ来るのは初めてってわけでもなし、一本道だから迷いようがないしな」
(あれ、見た目はすごく怖そうなのに話し方は意外とそうでもない…悪い人ではないのかな?)
容姿だけだとまるで裏社会の人間のようだが、話し方はいたって普通だし、柳田への接し方も友人に対するそれのようだ。
「遅れて悪いな。俺は東堂龍之介。歳は19で美大生だ」
どうやら本当に、見た目が怖いだけで普通の人のようだ。とりあえず一安心だ。
これで今回呼ばれていた6人が揃ったのだろう。柳田は満足そうに両手を合わせ、夕食を運んでくので待っているようにと告げると、深々と一度頭を下げ、厨房があるであろう方向へと歩いていく。
…さっきから薄々思っていたけれど、あの男は妙に動きが芝居がかっているところがあり落ち着かない。
とりあえず、この6人が今回孝宏がここに呼びたかったメンバーということだが、改めて見ても疑問ばかりだ。
いとこを除いた3人と聖理は初対面であるし、柳田が部屋を出て行った今、杏奈は取り残されたとでも言いたそうな顔をしているし、奏多と東堂もわざわざ話すことはないという態度のため、この3人が知り合いという線もなさそうだ。
一体、孝宏は何故この6人を今日ここに呼んだのか。早く直接会って理由が聞きたいー。もうあまりよくは思い出せない、遠い日の記憶の中にある彼の顔を思い描きながら、聖理は彼の登場と、夕食を運んでくる柳田の帰りを待つのだった。
ところが、夕食が終わり、食後のコーヒーを飲み終えても、孝宏が姿を現す気配はない。妙な面子での食事に疲れてしまったこともあり、聖理は柳田に声をかけた。
「あの、孝宏さんはどこにいるんですか?今回何でひさしぶりに連絡がきたのかまだ聞いていないので、気になっていて…」
すると誰かが言うのを待っていたというように、他の5人がほぼ同時に顔を上げ、柳田を見る。けれど、彼から告げられたのは言葉に、6人の期待は裏切られることになる。
「あの方はここへは来ません」
一瞬言葉の意味がわからなかった。わざわざ人をこんな辺鄙な場所に読んでおいて、当の本人が来ないなど、いくら親戚でも失礼すぎる。当然、このことに不満をもったのは聖理だけではなく、声があがる。
「それはないだろ。わざわざ人を呼んでおいて、用件すら聞かせてもらえないなんて」
「その通りです。ここに来ればその理由もわかるかと思って来たのに。柳田さんは何か聞いていないんですか?」
ちなみにこう発言したのは、奏多と龍之介だ。家出をしてきて行く場所のなかった杏奈はともかくとして、孝宏の自由さに彼らは慣れていないのか、すぐに不満を表した。
そんな様子を、まるで観察するように見ながら、柳田は落ち着いて伝える。
「ですがご安心ください。孝宏様からみなさんに、お預かりしているものがございます。まずはそちらをご覧ください」
そう言うと彼は、慣れた手つきでスクリーンを用意する。
(聖理にとってはまだ馴染みがないが、ドラマなどでプレゼンをする時に使われているやつだ)
そして、準備が整ったのか、柳田は部屋の照明を落とし、スクリーンに何かの映像を映す。場所は見慣れない部屋だ。それはいいとしても、不自然なのはそこに誰の姿も映っていないことだ。不思議に思いながらも見ていると、誰の姿もなかった映像の中に『何か』が入ってきたのがわかった。
入ってきたと言っても、目が何かを捉えたのではない。映像は相変わらず、誰もいない部屋が写されているだけだ。だが、確かに先程までは誰もいなかった空間に何かが入ってきた、と感じるのだ。強いて言うならば、透明人間がやってきたとでも言えばいいのだろうか。
初めは自分の気のせいかと思ったが、他のメンバーも『何か』が現れた瞬間、息を呑んだような反応をしていた。おそらく、本当に透明人間(仮にこういう呼び方をしておく)がいるのではないかーありえないと思いながらも、何か普通ではないこの別荘にいるせいなのか、本気でそう考えてしまう自分がいる。
見えないのにこういうのもおかしいが、透明人間が映像の中央の位置で落ち着くと、それと同時に男性の声がした。
『まずはみんな、今日は遠いところから来てくれてありがとう。ディナーは楽しんでいただけたかな?』
これは孝宏の声だろうか?長い間会っていなかったのもあるが、元々そこまで深い交流があったわけでもないので確信が持てない。戸惑う6人など気にせずに、声の主は典型的な挨拶を続けている。いい加減本題に入ってほしいと思い始めた頃、ようやく話の内容が変わり出した。
『さて、みんなどうして自分たちが今日ここに呼ばれたのか、気になっているだろうから説明するね。率直に言うと、今ここにいる6人で、これから長期間に渡り、とあるミッションをクリアしてもらいたい。内容は謎解きみたいなものから、宝探しみたいなものなど様々だ。それを10個全て達成した時、この集会は終了となる』
『ミッション』?『集会』?一体、なんの話を聞かされているのだろう。けれどいくら困惑しても、映像は説明を待ってはくれない。
『集会が終わればその後は自由。もちろん帰ってもらっても構わないし、そのままその別荘にいてもらっても構わない。それはその時に各々決めればいい。おそらく今は帰りたくても、その時になればどうなるかわからないからね』
「何言ってるんだ、こいつ」
それまで黙って聞いていた開が呟く。もっとも、この場にいる全員が思っていることではあるが。そんなの、一刻も早く家に帰りたいに決まっているのに。(家出中の杏奈のことはひとまずおいておく)
そもそも、いくらやるまで気が済まない自由人であったとしても、自分たちが孝宏の思いつきにここまで協力してやる必要など微塵もない。
普段は大人しい性格で、人からものを頼まれると断れない聖理だが、流石に付き合っていられない。さっさと帰ろうと思い席を立つと、開と奏多もほぼ同時に立ち上がる。そして、相手も同じ気持ちなのだと察して、3人で食堂の外へと出て行く。
柳田も止めるつもりはないのか、あっさりと通された。透明人間のことなど、気になることは多々あるが、聖理にも我慢の限界というものがある。
『そして君たちにはミッションをやりながらもう一つ、やってもらいたい事がある。いや、考えてもらいたいこと、かな?』
その最中も何やら話は続いていたが、気にする必要はないと聞き流す。けれど、食堂を出る直前に聞こえた言葉にだけは、どうしても反応してしまった。
『もし、今みんなが当たり前のように過ごしている現実世界が、実はそれこそが夢の国だったとしたら、君たちはどうする?』
(…⁉︎)
それは自分が日頃から思っていた疑問そのものだったのだから。
ここからやっと物語が動き出します。次回もどうぞよろしくお願いします。