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空っぽの器と食べかけの器

 その後、7時を過ぎると他のメンバーも少しずつ集まってきた。



 全員にきいてみたけれど、そのような童話に心当たりはないと言われてしまった。しかし今のところ他に手がかりもないので、その物語がヒントに繋がるかもしれないからと、4人も協力してくれることになった。



 そこで、やはりこの手しかないと、朝食の後にこの屋敷の書庫へ行き、そのような物語がないかを調べることにしたのだ。



 そんなわけで、今書庫にいるのは、聖理、開、奏多の3人だ。龍之介と拓実は本を読むと眠くなるからと言ってこの調査には不参加だ。そのかわりに、引き続きドールハウスの観察と、他の手がかりを探すため、屋敷の調査をしてもらっている。



 役割分担も決まったところで、早速調査開始となったわけだが…。 




 「…これ、全部?」



 書庫にある絵本と思われるものは、ざっと見ても全部で千冊は超えている。この量を3人で確認するとなると、気が遠くなるほどの時間がかかってしまう。



 そうしていても仕方がないと、とりあえず分担しながら読み進めていくが、それらしき童話はなかなか見つからない。



 やはりもう少し何か手がかりがあればいいのだが。



 そうしてどれくらいの時間が経っただろう。誰も話すことなく、黙々と読み進んでいると、ごぉーん、という音が聞こえて3人ほぼ同時に手を止める。


 最初は何事かと思ったが、すぐに正午を知らせる時計の音だと気がついた。ここの談話室にある大きな時計は、どうやら午前と午後の0時になると先ほどの音がするようだ。



 「お昼の時間になったし、一回休憩しようか」




 奏多の提案に、聖理も開も承諾し、3人揃って書庫から食堂へと移動する。そうして廊下を渡り、もうすぐ食堂へ到着、というところで中の様子が騒がしいことに気がついた。



 入るのを躊躇っているうちにドアが乱暴に開かれて、中から杏奈が飛び出してきて、不機嫌さを隠しもせずにずんずんとどこかへ行ってしまう。


 彼女が去った後、恐る恐る食堂へと入ると、龍之介が頭を抱えてため息をつき、拓実はあまり深刻には考えていなさそうに『あーあ』と大きく呟いている。


 3人の姿に気がつくと、『ああ、お前らか』と龍之介は困ったように笑う。


 「あいつとも親睦を深めてみようかと思って話しかけてみたら、こっちが何言っても気に入らないみたいで、しまいにはああだよ」


 「まるできんきらこだな」



 「きんきらこ?」



  拓実の言った言葉がわからず、聖理は彼に問いかける。



 「昔きいたことがある物語の登場人物だよ。自分の納得いくものじゃなきゃ機嫌が悪い女の子で、勝手に人の家に入ってつまみ食いしては、冷たいだの熱いだの文句ばっかりで」


 「あ、何かきいたことある。でもそれおばあさんじゃなかったっけ?」



 「え、俺が知ってるのは女の子だったけど」



 「…あ!」


 「え、どうした?」


 「それだ…」



 さっきまで闇雲に探していた童話。


 今彼らが話している、昔聞いたという物語。



 


 それこそが、朝から探していたものと同一のものだと思い出した。

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