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非日常と再会

 初めての投稿です!少しでも多くの人に読んでもらえたら嬉しいです。

 ファンタジーもの中心でやっていけたらと思いますので、よろしくお願いします!

 


 いつだったか、()()からこんな質問をされたことがある。



 ーーーもし、《夢》だと思っていた世界の方が《現実》で、《現実》だと思っているこの世界が本当は《夢》だったとしたら、君はどう思う?ーーー



 その時自分は何と答えたのか。それは思い出せない。だが、おそらく当時は「何言ってんだこいつ」なんて思っていただろう。だが、今の自分はこう答える。



 『…………【現実世界】(あちら側)…………【夢ノ国】(リアル)………』



 この答えを聞いたら、()()はどんな顔をするのだろうか。










《序章》


 誰もが当たり前だと思い込んでいることが、そうでなくなるとしたらどうだろう。

 誰でも一度は考えたことがあるのではないか。例えば、いつも乗る電車が、いつのまにか全く別の世界へ到着していたとか。例えば、ふと鏡を見ると、そこにあるはずの普段の自分の顔ではなく、自分の思い描く理想の顔が写っていただとか。

または、そもそも疑うことすらなく、日常を送っているこの世界こそが夢で、現実世界は別にあるとかーーー。



 そういったことを、衛藤聖理えとう せりは、昔からよく考える子どもだった。


 もちろん、そんなことはあるはずがないとわかりきっている。どんなに考えたところで、電車はいつも同じ時間に同じ駅で止まるし、鏡を覗けばいつだって変わらず自分の顔がある。


 それでも、こういった思考をやめることは出来なかった。何故ならそれが、彼女の数少ない娯楽の一つだからだ。


 いわゆる進学校に分類される学校へ通い、家と学校の往復くらいしか外へ出ることはあまりない。決して友人がいないなどという問題は抱えていないが、放課後や休日に出かけて、買い物や映画に行くことすら滅多にない。


 とても今時の16歳とは思えない話であるけれど、そうでもしなければ進学校の授業にはついていけない。幸いというところなのか、周囲にも似たような同級生はいるので、聖理だけが浮いているような事態にはなっていない。


 しかし、やはり器用な人種はいるもので、中には自由な時間は遊びながらもそこそこな成績を修めている生徒もいる。自分はその類いではないので努力を惜しまない。それだけのことだ。

 その結果、聖理の成績は、特別良くわないが決して悪くないものと言える。


 ところが、そのせいか、またはもとからなのかは不明だが、他の同年代の女子が好むようなものへの関心が極端に少ないのだった。流行りの服や化粧品はもちろん、芸能人に興味を持つこともない。


 箱入り娘という言葉は彼女の為にあるのでは、と思えるほどに自分を取り巻いている環境以外には関心がなく、世間知らず。それが彼女である。


 そんな彼女の数少ない趣味(と言っても、友人はおろか親ですらこのことを知らないが)が、『当たり前だと思っていたことがそうじゃなくなったら』について考えることだった。


 きっかけはわからないが、幼い頃から無意識にやっていて、もし本当に『そうじゃなくなったら』、人はどうするのだろうと考えていた。もしかしたら、そうなればいいという願望からきている思考かもしれないが、こうも思うのだ。


 (世界中の誰もが疑うことすらしない。すなわち、覆るわけがないことをあれこれ考えるのは馬鹿げていると思われても仕方のないことなんだろう)


 けれど、当たり前であることとは、みんながそう思い込んでいるだけで、実は全く異なる事実があったりはしないのか?そもそも何故、『当たり前』だと言われると人は疑うことをしないのか。それがいつも疑問だった。


 おそらくこの趣味は、そんな自分が自身も知らないうちに抱いていた、世の中への疑問と願望からきているもので、それに没頭している時間が、一種の憩いであり、自己満足しているのだと、聖理もひとりで納得している。


 そして今日もいつものように学校へ行き、いつものように授業を受けている。何も起きない平穏な日。まさに日常である。

この日最後の授業を受けながら、今日もこのまま何事もなく終わるのだろうと、半ば諦め、そう思っていた。



 (あ…雨だ)



 ふと窓を見ると、先程は降っていなかった雨が降り出していた。傘を持っているため、困惑することなく、再び授業に参加する。


 心のどこかで、もしかしたらとんでもないことが起きる前は、こんなありふれた時間の後なのかもーなどと思いながら。そしてそれは正しい事を、この数時間後、聖理は身をもって知ることになるわけだが…もちろんこの時は知るよしもなかった。




 授業が終わり、学校から駅へと向かうと、いつもよりもだいぶ人が多い。はじめは単に、雨だから電車を使う人が多いのかと思ったけれど、それだけでは説明がつかないほどの人の多さと、遠くから聞こえて来るざわめきが、そうではないと否定してくる。


 (何かあったのかな?)


 以前にも駅で利用客が倒れて救急車が呼ばれたことがあったので、今回もそれかな、と思いながら人だかりができているところまで行き、僅かな隙間からその中心の様子を伺う。


 しかし、今日は倒れている人の姿などどこにも見当たらない。それどころかいつもと何も変わらないように思える。けれど、よく見てみると人々が囲んでいる場所の中心が、ひどく水で濡れていることがわかった。


 雨が降っているため、床が濡れているのは当然であるが、現在の雨はそこまで勢いが強いわけではない。にも関わらず、中心のそれは水たまりと言っても差し支えないほどの水量だ。まるで、池に落ちた人間がそのまま歩き回ったような…。


 否、『歩き回った』という表現もこの場合、適切ではない。何故なら、もしこれがびしょ濡れになった人間が移動したことでできたものとするのなら、その水の跡は、屋根がある駅中の中央という不自然な場所から始まり、その約3m先の場所で途絶えているからだ。


 また、駅員たちの話をこっそり盗み聞くと、そこだけ雨漏りしていた、という結末でもないらしい。要するに、この状況で、ここまで駅の床がびしょ濡れになる理由が見当たらないわけだ。誰かがその疑問を投げかけたことで、面白い話に飢えた野次馬たちが集まり、ちょっとした騒ぎになっているらしい。


 ー誰かの悪戯かー野次馬の1人がそう言う声が聞こえた。だが、そうだとしてもまるで子どものする悪戯のようだ。駅員たちも問題にするようなことではないと判断したようで、すぐにいつもの様子へと戻る。念のため、水溜り周辺は転倒防止のため、カラーコーンを並べておくらしい。


 野次馬たちはすっかり関心を失い、各々目的の電車へと向かう。聖理もそれにまぎれて水たまりを横切る。しかし何故か最後にもう一度だけ見たいという欲が生まれ、素直にその気持ちに従ってみるとーーー。






 (きっと気のせい)







 いや、気のせいに決まっているのだ。カラーコーンにより誰も近づけない水たまりに、何やら小さな黒い影が一瞬映り、その後まるで、その影の主が嬉しくてたまらないという勢いで踊ったかのように、ピチョン!と、水面が跳ねるなど、絶対に有り得ないのだから。







 ちょっとした非日常があったその日の夜、いつものように自室で学校の課題をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 返事をすると、普段はあまり見ることのない、困惑した表情を浮かべた父親が入室してきた。どうやら、ここでも非日常的な出来事があったようだ。



 『どうかしたの?』



 そう思いながらも可能な限り平然とした様子で訪ねてみる。

 まだそうだと決まったわけではないのに、身内の不幸話であれば流石に聞きたくないので、そうではありませんようにとの願いを込めた結果だ。



 『いや、そんな大したことじゃないんだけど…』



 願いが届いたのか(おそらく関係ないが)父の口からその言葉が聞けて、とりあえずはホッとする。



 『もう随分長い間疎遠になっていたから、聖理は覚えていないかもしれないけど、父さんの伯父さんに会ったことがあるだろう?』



 父はこう言うが、聖理はしっかりと覚えている。というより、忘れられるわけがない。


 この父の伯父という人物は、ひとことで言うと、相当な変わり者だったのだ。


 結婚もせず、仕事も安定しておらず(当時の聖理には何の仕事をしていたのか、そもそもしていたのかは全くわからなかったが、少なくとも会社員などではなかった)、長い間連絡が取れず皆が心配していたら、手作りの船で無人島まで行って帰ってきただとか。


 またある時は、突然ひとりで海外へと旅に出て、現地の俳優と釣り仲間になっただとか。彼の常人とは思えない過去の行いを挙げるときりがない。



 けれど最近は落ち着いているのか(単に疎遠になったため話を聞いていないだけかもしれない)、彼についての話は聞いていなかった。だから、久々に何かあったのだろうと予想しながら、父の次の言葉を待つ。



 『その伯父さんがな、久しぶりに連絡してきたんだけど、今度の夏休みに聖理に伯父さんの別荘へ来てほしいって言うんだ』



 『………え?』 



 間抜けな声が出てしまったが、これが当然の反応だと思う。


 最後に聖理が彼と会ったのはたしか、まだ聖理が7歳か8歳の歳であったはずだし、その頃は父に連れられて行っただけで、その時も自分はずっといとこたちと遊んでいて、彼と深く関わったのはほぼ皆無だ。そもそも顔すらもよく思い出せない。


 そんな聖理をおよそ10年ぶりに自分の別荘へ呼ぶ理由が普通はない。そもそも彼が別荘を所有していたことすら、今初めて知った。そんな心情を読み取ったようで、父はこう付け足す。



 『父さんも不思議に思って、何で聖理を呼びたいのか訊いたんだよ。だけど、理由は言わずに、とりあえず来てほしいとしか話してくれなくて』


 なんだそれは。いくらなんでも自由すぎやしないか。というか職業もよくわからない上、別荘を所有しているなんて、彼は本当に何者なのだろうか。



 『呼ばれてるのは私だけなの?お父さんは?』



 すると父はさらに困った表情で口を開く。



 『今回父さんは呼ばれてない。でも聖理と他の子どもたちは全員来るように、とのことなんだよ。本当にあの人の考えることはわからん』



 【子どもたち】というのはおそらく、聖理の他には、彼女のいとこたちも含まれているだろう。だが彼らとももう5年近くは会っていない。


 余計に父の伯父が何を考えているのかわからない。



 聖理は自室の時計に表示されている日付をちらりと確認する。

 



 ー「6月23日」ーつまりあと一月ほどで指定されている夏休みに突入する。長いようで短い時間だ。




 普通に考えれば聖理を含めた子どもたちには拒否権がある筈だ。しかし、身内の者であれば彼が言い出したことは実行するまで収まらないことはわかりきっている。


 故に聖理以外の子どもたちもこの要求に従うだろう。



 また雨が降り出してきたようで、ポツポツと雨粒が窓を叩いている。そちらに視線を向けながら、自然と口に出た言葉は自分でも笑ってしまう内容だった。



 『うちの学校、1年だけは夏期講習がなくてよかった』







 時が経つのは早いもので、7月23日。時刻は午後4時。聖理は今、スーツケースを片手に、自然に囲まれた人気のない小さな駅へと降りていた。


 孝宏たかひろー彼の名前は忘れてしまっていたが、あの後父から聞いた、父の伯父の名前だーの別荘は、この人気のない駅からさらに車で1時間もかかる、とてつもなくアクセスの悪い立地だ。


 そのため、聖理をはじめ、今回呼ばれたメンバーはこの駅で指定された時間に集合し、迎えの車で別荘まで向かうという手筈になっている。


 これだけだと紳士的に聞こえるが、当日になっても、孝宏が聖理たちに召集をかけた理由も、自分以外に誰が呼ばれているのかも聞かされていないのだ。


 聞かされたことといえば、今回召集されたのは自分を含めた6人の子どもであることと、集合場所及び時間だけだ。


 何もかもがわからなすぎて不安になる。だが、おそらく召集メンバーにはあの2人もいるはずだから、それだけが救いだ。


 もう何年も会っていないからお互いにわかるだろうか…と心配な気持ちで改札を抜けると、ちょうどそれらしき人物が2人いた。向かうも音に反応したようで、こちらを振り返る。


 2人とも若い男だ。1人は聖理と同い年ぐらいで、もう1人は少し年上といった外見だ。面影と年齢から見て、誰だかすぐにわかった。



 『拓実たくみかい、で合ってる?』



 『おうよ』



 返事をしたのは拓実の方だ。2人は聖理のいとこ(父の兄の息子たち)で、歳は拓実が高3、開は聖理と同い年の高1だ。


 久しく会っていなかったが、年が近かったこともあり、昔は3人兄妹のように仲良くしていた。そんな2人が5年の時を経て、男の子から男の人になった姿を目の当たりにしてすぐに言葉が出てこない。



 何か言わなくてはと考え込んでいると、向こうから先に声をかけられる。



 『聖理おおきくなったなー。お兄ちゃんびっくりだよ』



 『兄貴、いとこじゃなくて親戚のおじさんが言う台詞だよ、それ』



 『別におじさん以外が言ったっていいだろうが。妹との5年ぶりの再会を喜んでる時くらい、優しく見守っていてくれよ』



 そのやり取りを見てほっこりする。忘れかけてしまっていたが、聖理はこの2人といるのが安心して大好きだったのだ。


 拓実のことは彼と同じように、聖理も本当の兄のように慕っていたし、開は同い年だから兄とも弟とも言い難いが、彼のこともきょうだいのように思っていた。強いて言うなら双子に近い存在だろうか。もちろん、想像することしかできないけれど。


 すっかり忘れてしまっていた空気のはずだったのに、彼らと会ったことで当時の関係が再び繋がったように、気づけば先ほどまでの気まずさはなくなっていた。


 『2人とも、見た目が大人になってたから緊張したけど、内面は変わってないみたいで、なんか安心した』


 『えぇ〜、それどう反応したらいいかめちゃ迷うやつじゃん。いや、内面だってね、変わったところはあるんだよ?俺も少しだけかもしれないけど、大人になったんだよ?』


 『兄貴もう諦めろ。いつまでも少年の心を忘れない純粋さがあるっていう褒め言葉として受け取っておけ』


 『お前は明らかに馬鹿にしてんだろ!お兄様をもっと敬え!そしてさっきからさりげなく俺のトランクの上に置いてるお前の荷物をどけろ、自分で持て!』


 再会を喜びつつ、そんな話をしていると、向こうから車がこちらに向かっているのが見えた。おそらくあれが例の迎えだろう。


 その予想は的中して、車は3人の前で止まると、中から30代半ばぐらいで、穏やかそうな雰囲気の長身の男性が降りてきた。


 『皆さま、遠くからようこそおいでくださいました。私は孝宏様から、皆さまを別荘までお連れするように仰せ使っている、柳田やなぎだと申します。早速、別荘へとお連れしますのでこちらへお乗りください』


 そう言って柳田と名乗る男は、手際よく車の荷物入れの扉を開け、3人の荷物を受け取ろうとする。


 しかし、孝宏の要求した人員はこの3人だけではない。事前に聞いた話ではあと3人来る筈だ。それはその場にいた全員がわかっているはずで、開が1番に口を開いた。


 『待ってください。今日招待されている人は、俺たちの他にも3人いるはずです。その人たちは待たなくていいんですか?』


 仮に3人揃って個人的な理由で遅刻してきたとしても、こんな田舎では迎えがなければ別荘まで行くのは相当な体力と気力が必要になる。そのことは柳田も十分わかっている筈だ。


 しかし彼は微笑みを浮かべている。最初、彼は穏やかな人物なのだという印象を受けたが、今の聖理は何故か彼に対して恐怖を覚えた。


 『そのことでしたらご心配なさらず。お二人は既に向こうに到着されています。もうお一人はご自分で行けるとのご連絡をいただいておりますので』


 だとすると、2人は集合時間を無視して、1人は迎えを断り自力で行くと断言したとー。


 3人は同時に目を合わせる。






ーーーーーーーーーーー何かおかしいーーーーーーーーーーー






 3人全員の目がそう言っていた。けれどこの場でこれ以上抗議するのもそれはそれで抵抗がある。結局3人は柳田に荷物を預けて車に乗り込む。車が走り出して駅から離れると、本当に田舎なようで周囲には何もない。


 今思えば、実は世にも奇妙な夏休みがこの時すでに始まっていることに、3人とも気がついているはずだ。しかし、信じたくないという気持ちが強く出ていたためか、皆それに気づかないふりをしていたのかもしれない。




 ここまで読んでいただきありがとうございます。こちらは長編になると思います。どうぞお付き合いください。

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